誕生日なんてなくなればいいと思っていた。マナを壊したあの夜を、僕は一生忘れない。


「Happy Birthday Allen」

そう盛大に書かれた文字に僕は苦笑いを浮かべた。自分以外の誰にもわからないように。今日12月25日は僕の誕生日。教団では晴れやかな僕の誕生パーティーを開いてくれていた。聖職者(エクソシスト)も探索部隊(ファインダー)もその他教団で働く各班員たちが一堂に集まり、誕生パーティーなんていう名ばかりの集まりを楽しんだ。僕はそれで良かったし、むしろそれでよかった。誰にも、僕の誕生日を祝ってなど欲しくなかった。

「こんなところにいた」

風通しの良いテラスで月を眺めていると、後ろからふとそんな声が聞こえてきた。鈴のように綺麗な声、振り向かなくともその声が一体誰のものなのかわかる。口元でちいさく笑みを作りながら僕は振り返った。そこには、リナリーがいた。

「もう、探したよ」
「ごめん、ちょっと涼みたくて」
「ううん、私もちょっと暑かったんだ」

そんなことを言いながら僕に一歩一歩近づく君。その両手は背中の後ろに隠されている。その手に何かを持っていてそれが何であるのか、僕は嫌でもわかってしまうのだ。

「・・・そう、ですか。ならよかった」
「はい」

そして、満面の笑みで彼女は僕の前に手に持っていたものを差しだした。

「誕生日おめでとう」

僕が嫌いなあの言葉と一緒に。

「・・・ありがとう」

無理矢理に笑顔を作った。ちゃんと笑顔になっているだろうか。彼女にその言葉を言われるのは正直避けたかった。彼女の手に乗せられた小さな小包みに手を伸ばす。すると彼女は、すっと小包みを乗せた両手を引いた。結果、僕の手は小包みを掴むことなく軽く空振りをする。

「リナリー?」
「いらないならいらないって、言っていいんだよ」

彼女は穏やかな表情でそう言った。決して怒ってはいないしいつもの彼女だと思った。それなのに僕は、心臓を刺され方のような衝撃を受けた。

「どうして、そんなこと言うの」
「なんとなく、忠告みたいなものだよ」
「変わった忠告だね」
「そうかな、君はそんなような顔をしていたよ」
「・・・僕が?」

その眼差しのやわらかな光もゆるやかな口の曲がりも、何もかもいつものやさしい彼女とは変わりないのに。言葉が言葉だけに変にどきまぎしてしまう。彼女の言葉が僕は嫌いだった。どんなに一生懸命隠しても、いつだって彼女は僕の中を見透かしてしまう。その眼差しも嫌いだった。

「アレンくんてさ、自分の誕生日大嫌いでしょう?」
「・・・、」

なんとも的確に言ってくれたと思う。「大嫌い」なんて普通に言ってくる彼女を、僕はやっぱり怖いと思った。

「図星かあ、はずれならよかったのに」
「なんでわかったんですか」
「なんでだろうね」

楽しそうに彼女は笑うけど、同時に僕の中ではわずかな苛立ちが見え始めた。彼女に苛立ちを覚えるのはいつ以来だろう。

「ただ、自分の誕生日をあんなに嫌そうに過ごす人がいるのかなって思ったの」
「あんなに?」
「うん、アレンくん、弾幕見て寂しそうに笑ってた」
「・・・」

見られてたんだ。まずそう思った。そして次に恥ずかしくなった。

「・・・気付かれていない自信あったのに」
「あはは、残念でしたー」

おどけて言う彼女に思わず笑ってしまった。あっけないほどに、あの苛立ちは消えていた。彼女には敵わない。

「12月25日は、僕がマナを、アクマにした養父を壊した日なんです。」
「・・・そう」
「そんな最愛の人を壊した日におめでとうなんて言われたら、むしろ、辛いんです」

こんなことを誰かに話したのは初めてかもしれないと思う。彼女は何も言わずに、ただ僕を見つめながら話を聞いてくれた。それはやさしさだったのか驚きだったのか、果ては哀れみだったのか。そのうちのどれであっても、どれでもなくてもいいと思えた。

「そっかあ、おめでとうが嫌なんだよね。じゃあ」
「じゃあ?」

名案だ、とでも言いたげな表情でぱっと花を咲かせた彼女はまっすぐに、真っ直ぐすぎるほどに真っ直ぐな目で僕を見つめた。心臓は面白いほどに拍動を激しくする。彼女の瞳はどこまでも黒く、深く、美しかった。そして薄いピンク色のその唇から、やさしくゆっくり、確実に伝わるかのように告げたのだ。そうして僕は、自分でも気付かぬうちに涙を流したんだ。


君が生まれてきてくれてよかった。
(思わず手を伸ばした)
(僕へのプレゼントごと、君を抱きしめていた)


2010.12.25(2011.07.23 改変)


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