任務から帰って一番に向かえてくれたのはリナリーだった。
「おかえり」なんて可愛い笑顔で言われたら疲れも何も吹っ飛んでしまった。
彼女はまるで天使のようで、いや聖母のようで、いやいや女神のようで。
「ただいま」と返すと一層に綺麗に笑った。

「怪我はない?みんな無事?」
「はい、いたって簡単な任務だったので」
「そう、よかった」

ほっ、と小さく息を吐いて方をおろす彼女に笑みがこぼれた。
いつも帰ってくると必ず身体の心配をしてくれる。そして心底安心した顔をする。
人一倍仲間思いで、人一倍やさしい。そんな彼女は教団でもアイドル的存在でいつもみんなを癒した。

「リナリーは?どうでした、任務」
「あ、うん。不発だったよ」

残念、と眉を下げて俯く横顔はきっと室長であり兄であるコムイさんに向けられているものだとわかる。
誰よりも教団の為に、仲間の為に、大切な兄の為に戦う彼女を僕は好きになった。
でもその頑張りがたまにいきすぎて、自分のことなど顧みないで彼女は駆けだしていく。
僕が守るから、守ってみせるから。一度だけそんな告白みたいなことを言ったことがあったが見事にスルーされた。
「ありがとう、頼もしいな」なんていかにも本気にしていない様子にかなり落ち込んだことを覚えている。
彼女にとって僕はまだまだ子どもで、弟みたいなもので。身長も筋肉も、以前とは別人のように成長したはずなのに、
成長したのは身体だけで中身までは変わっていなかったと痛感した。

「そういえば」

頭の中でぐるぐると自己暗示に入っていた僕の耳に入ってきたのは鈴のような彼女の声。
変に驚いて少し情けない声を出してしまった、でも彼女は気にした様子もなく言葉を続けた。

「いつの間にか追い越されちゃったなあ」
「え?」
「身長」

僕の幾らか下から大きな瞳が見上げてきた。(う、)

「アレンくんもすっかり大人のひとだね」

気のせいだろうか、彼女の頬が少しだけ紅い気がするのは。
一瞬にして沸き上がる熱と嬉しさと、もうなんだか言い表せないようなことが起こる。
それは、その顔は、いったい。

「リナ・・・」
「あっ、兄さん!」
「えっ」

口を開こうとしたそのときだった。
向こうの方に大量の資料を抱えたコムイさんが見えたのは。

「あ、ちょっ、リナリー!」

呼び止めようとした時にはすでに遅く、彼女は兄の元へと走り出していた。
コムイさんも振り向いた瞬間別人のように顔を変えシスコン顔になる。(あ〜あ)

「じゃあね、アレンくん!ゆっくり休んでね!」

柔らかく手を振りながら笑う彼女に反射的に手を振った。
ち、違うそうじゃない!今、たった今ここで起きたこと・・・!

「リ・・・」

彼女の名前を呼ぼうとしたら彼女の隣からものすごい眼光を浴びせられた。
明らかにタイミングを逃した、そう思った。彼女の兄はとんでもなく利口で恐ろしい。
もしかしてさっきの僕たちの会話、聞いていたんじゃないだろうか(絶対そうだ)。
大きな大きな壁(もはや障害)になりそうな彼女の兄の後ろ姿を見つめながら、
その一方でさっき彼女に言われた言葉を思い出し思わず口角を緩めてしまった。

―ちょっと前進?とりあえず、生粋の弟ポジションからは抜け出せそうかな。

そんなことを心の中で呟いて、踵を返して報告書作りに自室へと向かった。
きっと1時間もすれば彼女はまた僕のもとへやってくる。「ごくろうさま、コーヒーいる?」とでも言って。
そのとき言おう、彼女にとってはたぶん初めての、僕にとっては二度目の告白を。


目指せ!弟から恋人。


2010.09.03(2011.07.23 加筆)


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