彼の嘘はいつだって優しかった。私を傷付けないように、悲しませないように、苦しませないように。そっと包み込むような嘘をいくつもくれた。その優しい嘘に触れる度只々泣きたくなって、同時に彼の私に対する最大の愛だったと実感していたんだ。




「リナリー、ずっと好きだから」

解れるようなやさしい微笑みを私に向けながら彼は言った。いつものように私達以外誰も知らない丘の上で寝そべっていたとき突然に。その言葉を聞いた途端、思わず天を仰いだ。今彼を見たら情けなく泣いてしまうとわかっていたから。悟るには分かりやす過ぎる、彼からの別れの言葉だった。

「私も、ずっとラビが好きよ」

精一杯の強がりで隣に寝そべる彼に告げると、ふと手が重ねられた。大きくてあたたかい私の大好きな手。お互いに顔を向けることはできなかった。だってあの時互いの顔を見たら言ってしまいそうだったの。
「行かないで、ずっとそばにいて」と。

「へへ、ありがとさ」

嬉しそうな彼の笑顔が泣き顔に見えた、それだけで、私は幸せだった。取り繕えないほどに私との別れを惜しんでくれていると思うと、ただ、それだけで。

「わたしこそ」

つられたように私も笑うと、ぐっとふたりの距離が縮まってどちらともなく唇を寄せ合った。私に軽く被い被さる形になった彼がぴったりと塞いで呼吸を合わせる。ゆっくりと彼の首に腕を回すと一瞬だけ身体が強張ったが、すぐに私の腰に片腕を回してきつく抱き寄せられた。深くなる口づけも熱くなる身体も溢れてしまいそうな想いも、今この瞬間だけはなにもかも神に内緒で愛し合って。
そして次の朝が来たら、消え去ったあなたとあなたのぬくもりを思い出にして、私はまた歩き出すから。


あなたの嘘があなたの幸せに繋がるなら、私は十分幸せだよ。


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