名前を呼ばれるたびに鼓動がやさしく鳴る。今まで知らなかった甘い苦しさをひとつひとつ刻んでは思った。この感情を与えてくれる彼女の世界で、どうしても生きたいと。

「もう、兄さんったら相変わらずなんだから」

見上げた段幕には、彼女の誕生日を祝うメッセージが大きく書かれていた。鮮やかな装飾、豪華な料理の数々、そして、エクソシスト、探索部隊分け隔てなく集まったたくさんの団員。大いに賑わう会場から抜け出した主役は、言葉とは裏腹に嬉しそうな顔をしていた。その表情のまま振り返った彼女は、ささやかな風を受けながら話し始めた。

「また来年のこの日もみんなが笑っててくれるなら、わたし、きっと幸せよ」

今もね、すごく幸せ。
そう言って彼女は幸せに笑った。その笑顔を惜しむことなくさらけ出して、本当に幸せだって見せつけるみたいに。

「来年の今日も、どうかみんなが幸せでありますように。わたしが生まれた日に世界が笑っててくれる幸せだけで、わたしはいくらでも強くなれる」

触れてきた彼女の手は、向けられた目は綺麗だった。世界はまるで止まったみたいに、彼女だけを切り取った。やさしく、名前を呼ばれる。心臓が甘く軋んだ。

「死なないで。それ以外、何もあなたに望まないから」

彼女は笑った。やっぱり幸せに笑ったけど、ひどく切なかった。癖で彼女の頬に指を滑らせても濡れなかった。それでも見えないそれを拭うみたいにゆっくり指を滑らせると、彼女が小さく笑って瞼を下ろした。触れるだけのキスを瞼と頬と唇に落とし、それから細い体を抱き締める。

「好きよ」

胸の中に響いた彼女の声が、愛しい、だなんて思った。


prev next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -