町行く少女達のようになりたいと思った。華やかな服や靴に身を包み、髪をおしゃれにセットして、何にも囚われない足取りで歩きたいと。でも私はそうはなれない。真っ黒なコートを着て、いつもと変わらないツインテールで、ガラス越しに色とりどりの服や靴を見るだけ。冷たい黒い靴に、使命という鎖を繋げられたまま歩くだけ。それでもいいと思えた。それで私の世界が成立するなら、大切な人を守れるなら。私は女の子じゃなくて、エクソシストがいいと思った。
それでも世界は、悪戯に私を惑わせようとする。
「え…、これ…?」
「へへ、どうさ?」
手渡された小箱を開けると、そこにはキラキラと輝く髪飾りがあった。丁寧な細工、カラフルな色合い、とても綺麗だと思った。
「綺麗…」
「まじ!?…よかったー、気に入ってくれなかったらどうしようかと思ってたんさ」
「そんな…!う、うれしいよ!でも」
うれしい、すごくうれしいよ。でも、こんな綺麗なもの私には似合わない。女の子じゃなくてエクソシストになるって決めた、強くなるためなら自分を捨てるって決めた。あの決意を、ここで崩しちゃいけないと思った。口を閉ざした私を、ラビは不思議そうに覗いてきた。ラビはとても察しの良い人で、きっと私の顔を見ただけで私の考えてることをわかってしまう。だから更に顔を俯かせて、ただ一言呟いた。
「ごめん、なさい」
馬鹿みたいだった、泣きそうだった。小箱の中の髪飾りがとても綺麗だったから、似合わない自分が惨めだった。私には黒が似合いだ。キラキラした華やかなものは、私には似合わない。
「だめさ、許さない」
そんな声がしたと思ったら、急に視界がラビでいっぱいになった。ラビの匂いと体温と強さが、私の思考を奪い去った。
「自分には似合わないとか思ってるなら、許さない」
私の両頬に手を添えて、射抜くような隻眼で見つめられた。そんなことされたら何も出来ない。やっぱり私の考えてることをわかってしまうラビが、どうしようもなく悔しくてうれしかった。
「リナリーは綺麗だ。可愛い。めちゃくちゃ可愛い。そんなお前に一番似合うと思ったから、俺はこれをあげたいんさ。なあ、わかる?俺いま、めちゃくちゃお前に告白してんだけど」
ラビの言葉は、私をどうしようもなく女の子にする。ラビの顔がぼやけて、一度瞬きをすると睫毛の先に雫がのった。名前を呼ぶと、ラビは優しい返事をくれた。
「なに?リナリー」
「わたし、ラビの前では、女の子でもいいかなあ?エクソシストじゃなくて、ひとりの女の子でも」
クリアにならない視界のなかで、ふわっとラビが笑った気がした。指の腹で雫を拭われたら、照れた顔をしたラビがいた。
「いいよ、なって。そんで俺だけが、誰よりも女の子のリナリーを知るんさ」
誰よりも、さ。そう念を押されて笑った私はきっと、世界一幸せな女の子。たったひとりあなただけのために、私は可愛くなりたいと思ったの。
深海のようなわたし
辿り着いたあなただけが
2011.10.10
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