周りの雰囲気に圧されてか思わず作ってしまった手作りチョコレート。作ってから後悔したことと言えば一人分しか作らなかったことだった。それはあからさまに本命になる。渡すのだって気後れする。義理に交えて渡す程度でちょうどよかったはずなのに。

「私のばか…」
「今更気付いたのかよ?」
「へっ…?」

聴き慣れすぎた、でも今ここにあるはずない声が聞こえた。ぎぎぎ、と首を軋ませながら振り向くと、そこにはご丁寧に窓から入ってきたナツがいた。

「ナ、ツ!」
「よォ、もらいに来たぜ」
「は?なにを?」
「それに決まってんだろ」

それ、と言ってナツが指差した先にはまだラッピングされていない裸のチョコレート。思わず悲鳴をあげそうになるのを必死に呑み込んで、慌ててナツとチョコレートの間に自分を挟めた。

「な、なに言って」
「俺以外の誰にやるってんだよ、よこせ」
「は、はあ?!」

不躾な言葉を吐きながらじりじりと近づくナツはとても、とても真っ直ぐな眼差しでルーシィを見つめた。その眼差しから目を離せない。ナツが一歩踏み出すごとに一歩退く自分の脚がテーブルにぶつかったとき、ルーシィははっと我にかえった。

「ナ、ナツ!?」

戸惑いの色を浮かべたルーシィに、ナツはさらに一歩近づく。ルーシィの身体を挟むようにテーブルに手をつけば、彼女はもう逃れられない。

「ナ…」
「はやくくれよ」

低い声が、ルーシィの耳を燻った。全身を駆け巡った電流は、同時に全身を熱くする。

「俺の、だろ?」

そう言ってゆるく腰を撫でられる。何が、俺の?チョコが?それとも、わたしが?

「欲しくて、たまんねえんだよ」

その言葉に、声に、眼差しに。私の思考は弾けた。ただナツを見つめるだけで、呼吸をするだけで。触れる唇や身体は熱かっただけで。私の後ろの裸のチョコが溶けてしまわないかなんて、考える余裕はなかった。



あなたで溶かして




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