愛しいあの子の後ろ姿が見えた。名前を呼んで、駆け寄って。彼女は振り返って笑ったけど、そのまま光の中に消えてしまった。消えて、しまったんだ。



「…!」

なんて夢だ。しかも初夢だ。
汗ばむ額に手をあてながらロキは先程の夢に身震いした。窓のそとを見るともうすぐ夜が明けそうだった。隣では夢の中で追いかけた愛しいあの子が眠っていて思わず息を洩らした。

―何を、焦っているんだ僕は。

あれは夢だ、夢だったんだ。自分を落ち着かせようと必死に心の中で繰り返し呟く。隣には確かに愛しい存在があって、触れられる距離にいて、それなのに、こんなにも胸はざわつく。訳のわからない不安を掻き消すかのように彼女の肌に手を這わせ、たまらず抱き締めた。彼女はくぐもった声をあげてゆっくりと目を開く。

「…ロ、キ?」

その声に酷く安心した。抱き締める腕に力が入ったせいで、ルーシィは不安そうに再度僕の名を呼ぶ。

「ごめん、ただ今は、このままで」

曖昧に言葉を紡ぐ僕に彼女は何も言わない。ただゆっくりと目を閉じて僕の胸に擦り寄ってきた。彼女の柔らかさ、温かさ、香り。それらが確実に、僕の内側を揺さぶった。馬鹿みたいだ、夢の中の愛しいあの子は今ちゃんとこの腕の中にいるのに、どうして僕はこんなにも切なく悲しいのだろう。どうして、涙が視界を滲ませるのだろう。初夢、という意味が僕を不安にさせるのか。これがただの夢だったならこれ程苦しむことはなかったのか。考えても考えてもわからない。ひたすらに不安だった。その不安を誤魔化すように、強く強く彼女を抱き締めた。

『初夢はね、現実になるんだって』

いつかそう言って笑った彼女の顔が、夢の中の愛しいあの子の笑顔と重なる。カウントダウンはもうその時始まっていた。彼女が光に拐われるまで。あと、




夢は夢のまま、綺麗な幻想であってほしかった。



2011.01.02




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