真っ黒でタイトな衣装、くるくると巻かれた髪、光るリップグロス。そして弾けるような愛らしい笑顔が、一際男の目を引いた。

「へえ、ルーシィは悪魔か?」
「失礼ね、小悪魔よ!」
「なんだよ変わんねーだろ」

そう言いながら右手に持っていた骨付き肉を囓るナツは頭に耳、お尻には尻尾というメジャーな狼男の仮装。あまりの似合いっぷりにルーシィはくすりと笑い、そのルーシィの笑いが癇に障ったのかナツは顔を訝しめた。

「なんだよ、」
「ううん、似合うなあと思って」
「はあ?」

意味がわからない、とでも言いたげに呆れるナツに終始笑っていると、突然後ろから腰を引かれた。「きゃっ」と小さく悲鳴をあげそのまま後ろに倒れる、と思ったらあたたかい腕の中だった。目の前にいるナツの驚いた顔が見える。

「ルーシィ、探したよ」
「ロ、ロキ!」

腰を引いたのはギルドの仲間でありルーシィが所有する星霊のロキだった。ルーシィと同じ黒の衣装、襟の立った長いマントとわりと控えめな牙。典型的なヴァンパイア仮装だったがロキがすると妙にリアリティがあり、ルーシィは少し目を見開いた。そんなルーシィにロキはにこりと笑い「びっくりさせてごめんね?」と少し眉を下げながら謝罪する。

「っも、もうびっくりするじゃない!」
「うん、ほんとごめん」
「・・・もう」

本当に申し訳なさそうに謝るロキにルーシィはなんだか怒る気もなくなってしまい、しぶしぶと許しを出した。ふと視線を下に落とせば自分の腹には未だにロキの手があり、しっかりと支えられている。急に気恥ずかしくなって慌てて体制を整えるがロキの手は離れず、むしろその強さが増したようにも感じた。

「ロキ・・・?」

またいつもの意地悪だろうか、と少し睨みながら見上げる。が、その視線の先にはなんだかいつもと違う雰囲気のロキの顔。そのロキの視線の先には不機嫌そうにこちらを見るナツがいた。

「や、やだロキ!離してってばっ・・・」
「どうして?ルーシィは僕のものなのに」
「っ・・・!」

にやり、とあがった口角に、その厭らしさに思わずルーシィの顔に熱が沸き上がる。ナツはと言えば相変わらずの仏頂面で何も言わずにふたりを見ている。

「すまないナツ、ルーシィと約束してるんだ」
「・・・あっそ」

面白くなさそうに言葉を吐き捨てたナツはそのまま踵を返し人混みの中へと消えていった。

「・・・いつ約束したかしら?」

顔を俯かせたまま少しトーンの下がった声で問いかけるルーシィに、ロキは砕けるような甘い笑顔を向けながら飄々と言う。

「夢の中で」
「へえ、道理で覚えがないワケだわ」

顔は上げられないが滅茶苦茶なロキの言い分にはいくらでも言いたいことがある。なのに、顔に集まる熱の所為で頭がクラクラとした。

「まあ、大目に見てよ。一緒にいたかったのはほんとなんだし」
「・・・っふん」

こうも簡単にこんなセリフを言えてしまうロキにルーシィはいつだって勝てない。男慣れしていない自分で遊んでいるだけなんだと、このちょっとしたドキドキは気まぐれなんだと言い聞かせているとふいに手を握られた。

「な、に」
「ちょっとついておいで」

そう言うとロキは軽やかな足取りで歩き出し、つられるようにルーシィの足も動き出す。人でごった返すギルド内をするすると抜け外に出ると、用意されたかのように美しい三日月が夜を照らしていた。

「わあ・・・」
「綺麗だよね、今夜は特に」
「うん」

月を見上げながらふわりと笑うルーシィ、その横顔にロキは目を奪われた。金糸のように細く美しい髪が、艶やかに光る唇が、彼女の何もかもが、今夜はいつも以上に輝いて見える。自分とは思えないような声でロキはルーシィの名前を呼んだ。少し跳ね上がったルーシィの肩は白く華奢だった。

「・・・ロキ?どうした、の、」
「Trick or treat?」
「え?」

お菓子をくれなきゃ悪戯するよ?と悪戯っぽく言ったその声はさっきとはもう違うものでいつものロキの声だった。ルーシィの頭の中は小さく混乱し始めて、あれ?と何度も繰り返す。

「くれないの?お菓子」
「えっ!あ、ううんある!手作りの!・・・あ、テーブルに置いて来ちゃった・・・」

慌ただしく自分の身体を叩きながら確認するルーシィにロキは小さく笑う。

「じゃあ、悪戯、だね」
「ええ!?ま、待ってよ!あるからお菓子!」

すかさずルーシィは守りの体制に入り、ロキから一歩身を引いた。ロキはと言えば楽しそうに笑いながらじりじりと歩み寄ってくる。ルーシィの足も比例するように一歩一歩とさがっていった。

「て、手作りよ!?」
「それもちゃんと頂くよ。あとでね」
「ず、ずるっ!」

いつもの悪戯っぽい笑顔が今日だけは恐怖に感じる、そう思いながら身を引くルーシィだが当たり前のようにまばたきをした瞬間にあっという間に距離を縮められてしまった。

「きゃあ!」
「はい捕まえた。」

ロキの腕の中にしっかりと収められルーシィは自由に身動きできなくなる。

「ちょっと!」
「・・・悪戯、だよ」
「っ・・・」

突然耳元で囁かれた声はさっきの、まるで知らない男の人のような声で、ルーシィは思わず身を強張らせた。そして今度は身体中が熱くなり始めて、後ろでぴったりと胸板を押しつけるロキに伝わりはしないかとドキドキする。

「ねえ、ルーシィに悪戯できるのは、僕だけでしょ?」

その声にルーシィの胸の奥がきゅっと締め付けられた。やめてよ、そんな切なそうな声で。そう言いたいのに、声にならない。

「他の奴らなんて、嫌だよ」

その切実なまでの声に、ルーシィは「ずるい」と悔しそうに呟いた。

「いつだって、ロキはずるい」
「ルーシィだって」

両肩を掴んで自分の方にルーシィを向けたロキは、そのブラウンの瞳を覗き込むように視線を合わせた。わずかに潤んだそれはひどく凶悪的だった。

「今だって、こんなに、」

僕を掻き乱してる。
ロキのその言葉は聞こえないふりをして、ルーシィは恥ずかしそうに視線を外した。ああ、じれったい。ロキはたまらなくなってルーシィの顎を掴み強引に唇を奪う。抵抗はない。ただ、ひゅっと彼女の息が鳴った。

「・・・ん」

ゆるく開いた唇から舌を差し入れた時そんな声がした。いつの間にかルーシィはロキの服を掴んでいて、それが無意識の行動だから気付いてしまったロキはどうしようもなかった。

「まったく、君って子は」
「・・・?」

唇を離し極近距離で、困ったようなロキの顔、不思議そうなルーシィの顔がお互い見えた。

「やっぱりずるい」

そう言ったロキに赤い顔のままルーシィは何かを言おうとした。でもそれは叶わずすかさず唇をふさがれる。まったく、どっちがずるいのよ。頭の中でぼんやりと考えながらルーシィはロキの首に腕を回した。それはルーシィからの、ロキに対する精一杯の悪戯。



今日くらいは私の悪戯な愛も受け取ってくださいな。


2010.11.03



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