年に一度、チョコレートに想いを溶かしてあなたに贈る。その本当の意味を私は曖昧なままにしていた。今年もきっと、曖昧なまま私の想いはあなたに食べられる。



「スガタくん、ハッピーバレンタイン!」

いつも通りの明るさを装って差し出した箱は、彼を連想させる濃紺の包装紙に白いリボンをあしらったもの。スガタくんもいつも通り柔和に笑って受け取ってくれた。いつも通りのやりとりだった。

「今食べてもいい?」
「え?うん、もちろん」

でもいつもとは違って、渡したそれをスガタくんは私の目の前で開く。丁寧に包装を解いて箱を開けたら、選りすぐりの綺麗なトリュフが見えた。スガタくんはその一つを摘まんで口のなかに放り込む。少し緊張した私の掌は汗で湿っていた。

「うん、おいしい」
「…よ!よかった〜」

笑った顔とおいしいのひとことに緊張がぷつりと切れた。スガタくんは二つめを摘まんでいて、私は思わず顔を綻ばせた。するとトリュフを摘まんだその指は私に向けて差し出された。

「ん?」
「ワコも。自分で食べてみたら?」

ほら、と。変わらず笑いながらスガタくんは差し出すのに、何故だか私の鼓動は速まった。誘われるみたいに私は彼へと近づいていく。そして、じゃあ食べてみよっかな、と彼の前に来てわざとらしく平静に振る舞った。私が手を差し出すとスガタくんはその手にはチョコを乗せず、ずい、っと私の口まで差し出した。思いもかけない展開に私は何も言えなくなった。

「はい、口開けて」

それはつまり、スガタくんの指先から食べろ、ってことですか。疑問は私の中だけで生まれ、消化されないままぐるぐると飛び交う。でもスガタくんは何だか楽しそうに笑って早くと急かす。ここで怯んでいたら、曖昧は崩れてしまう。私は意を決して口を開いた。そしてそのままチョコ食べた。触れてしまったスガタくんの指先を感じて、顔から火が出てしまいそうだった。だけど伊達に演劇部じゃない、と言い聞かせながら平静を装う。口の中で溶けたチョコは、彼仕様で少し苦い。

「おいしいだろ?」
「う、うん…って自分で言うのもなんだけど。あははは」

カラカラとした笑い方しか今の私には出来なかった。心臓はドキドキと騒がしく脈打つばかりで、どうにかなってしまいそうだった。いつも通りの、和やかなバレンタインで私は十分だ。いつも通りでないバレンタインは私の心身に悪い。そう考えているといつのまにか視界が暗く影って、ふと顔をあげると唇に何かが触れた。目の前に広がったのは、スガタくんの綺麗な顔。

「うん、やっぱりおいしい」

いま、何が起きたんだろう?呆けた私の耳に入ってきたスガタくんの声は楽しげで、私はまじまじと彼を見つめてしまった。それに気付いて唇の端を舌でペロリと舐めたあとスガタくんは満面の笑みをこちらに向けた。それからようやく、私はこの世の全てを知ってしまったかのように絶叫した。


チョコレートリップ
(今年こそもらうから)
(君の本当の気持ちを)


2012.02.07



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