彼女がくれた箱は他の人にあげたそれの倍は大きかった。

「アレン君はいっぱい食べるかと思って。…さすがに多すぎたかな、ごめんね」
「ううん!嬉しいよ」

困ったように笑った彼女は可愛い。僕のことを思って僕だけ他の人より多いチョコレート。それだけのことが嬉しい。僕だけ。それはついこの間手に入れた恋人というポジションならではの特権だった。

「うんとね、甘いのと苦いのと半分ずつ入ってるの。あと中身もね、アーモンドとかクランキーとかホワイトチョコとか」
「へえ!見た目にはわからないね」
「ふふ、食べてからのお楽しみだよ」

そう言って彼女は箱の中のチョコをひとつ摘まんで僕の口に差し出した。僕は思ってもいなかったことにしばしば固まったが、「はい」と優しく笑う彼女に引き寄せられるみたいに口を開いた。

「どう?」
「す、すごくおいしい」
「ほんと?よかったあ」

ふわりと嬉しそうに笑う彼女につられて僕も顔の筋肉が緩んだ。ありがとう、と告げると彼女は「こちらこそもらってくれてありがとう」となんとも心臓を擽るようなことを言った。

「…リナリー、これ以上僕を嬉しくさせないでよ」
「ええ?」

驚いたように声をあげた彼女もやっぱり可愛くて、何でもないよと誤魔化して笑った。話を変えようとふと今日の対になる日のことを思い出した。

「ホワイトデー、うんとお返しするから!」

少し大袈裟なくらい張り切って言うと、彼女は楽しそうに笑ったあとに告げた。

「ううん、もうもらったよ」
「え?」

今度は僕が驚く番だった。彼女は優しく笑ったまま言葉を続ける。

「アレン君がおいしいって言ってくれたこと、ありがとうって言ってくれたこと。それだけじゃない。みんなを大切に思ってくれること、笑っててくれること、生きててくれること。全部全部、アレン君から私への贈り物だよ」

私ね、毎日が幸せだよ。

そうして僕は泣きそうになった。いつだって彼女の想いや言葉は僕に優しすぎて、そっと涙を誘うんだ。僕は何も言えなくなってしまってただ彼女を見つめた。

「アレン君。私は君がいない世界なんて考えられないよ。君がいないと悲しくて寂しくて怖くて、きっと私、」

うっすらと彼女の瞳に膜が張られていくのがわかった。僕は静かに歩み寄った。そしてそっと腕を伸ばして彼女を抱き締めた。

「リナリー」
「ごめんね。ごめんね、ありがとう。今日も生きてくれて、笑ってくれて、そばにいてくれて。他には何も望まない、だから、明日も明後日もずっと生きてね。笑ってね。そばに、いてね」

あっけないほどに彼女は脆くて。僕は愛しくて。抱き締めたこの存在の、たったひとつのその願いを僕は全力で叶えたいと思った。彼女は僕の肩に顔を埋めて静かに泣いた。

「リナリー。僕は今日も明日も明後日も、その先も生きるよ。きっと幸せに笑う。いつだって君のそばで。君のために、僕のために」
「……ん、」

頬を撫でた手でそのまま顔を上向かせて唇に唇で触れた。彼女の濡れた睫毛が僕のそれを掠める。愛しくて甘いキスだった。すがり付いた彼女をもっと強く抱き締めて、このひとりのためだけに、いくらでも強くなれると思った。


甘やかなその涙を
明日も明後日も
守り続けるために



2012.01.30



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