「せ、先輩」
「ん?なあに?千鶴ちゃん」
ああ、やっぱりかっこいいな…じゃなくてどうしよう。
振り返って眩しい笑顔を見せる先輩を前にするとやっぱり勇気がすり減る。背中に隠した私のささやかで精一杯の気持ちは、手汗で湿ってしまいそうだった。どうしよう、どうしよう。緊張で言葉が思い付かない。こんなんじゃ、先輩が困ってしまう。あう、あうと口ごもる私の耳に次の瞬間聞こえたのは、先輩の低くて色っぽい声。
「ねえ、今日が何の日かわかってて、僕のところに来てくれたの?」
「っあ、う……は、い」
ドキドキと、只でさえ大変なことになっていた心臓がさらにドキドキと騒ぐ。私を見つめる先輩の目が綺麗で、緩やかに弧を描く唇が綺麗で。時間が止まったみたいに何も考えられなくなって、余計に何も言えなくなった。
「わかっててくれないなんて、千鶴ちゃん酷くない?」
少し拗ねた風な先輩の声にはっとなった。先輩、先輩。いいんですか?私の気持ち、もらってくれるんですか?声にしたい言葉は一つも伝えられない。ただ先輩を見つめることしかできない。隠していた気持ちが、もう先輩には見つかってますか。見つめて、見つめて、苦しくて、私の気持ちは早く早くと、先輩のところに行きたがった。
「せん、ぱい」
「ん?」
優しい声で導いてくれる先輩。意地悪なのに優しい先輩。先輩、先輩。私ずっと、もうずっと、どうしようもないくらいに先輩のこと、
「す、き」
重力に従うように落ちたのは、とてもそれだけでは伝えきれない気持ちと言葉。先輩は少しだけ柔らかい笑みを崩したけどまたすぐに笑った。すごく愛しく笑ったの。
「うん、知ってる。僕、君のことなら何でも知ってるから。…どうしてだか、わかる?」
「どうして、ですか」
唇が震えた。愛しく笑った先輩は、その答えをゆっくりと、私の気持ちに重ねて溶かした。
溶け合うふたりの
2012.01.25