エンプティポケット(平次と和葉) :

※救いようのない平和



言葉にしなくてもわかるとか、今更だとか、そんなことを繰り返しながら避けて通ってきた。
そのつけを、今払わされてるのだと思った。



眩しいぐらいの白無垢に身を包んだ、知らない女。
それは、たった一夜だけその美しさを晒す、あの白い花のような美しさと儚さを感じさせた。


ーそんなん、知らん


知らない女は、俺がこの世で一番知ってると思った女だった。
声がでかくて喧しくて、母のように口うるさくて、大口開けて笑ったかと思ったらすぐに怒って、料理が上手で世話焼きで、情に脆くて、子どもが大好きな。
そんな俺の知ってる女とは違う、知らない女だった。



ーなんや、その顔は。
ーなんでそんな風に笑うんや。
ー馬子にも衣装なんてようゆうたもんやけど、それにしたって、今日のお前は誰よりも
ー・・・誰よりも



紋付羽織袴を着た男の隣を、静々と、新雪を踏むが如く静々と歩いていく。
その姿をこの世で一番見たくないのはきっと俺で、なのに、その姿から目を離せなくて。
しん、と静まり返っているのは周りなのか、それとも、俺の心なのか。
考えても考えられず、思考はその働きを忘れ、俺はただ、どうしようもない後悔の海を彷徨うしかできなかった。



真っ赤な紅葉のように彩られた唇が、まっさらな盃に口付けられたとき。
ずっと俺のものやと思っていたものが、俺ではない誰かのものになった。







ー平次、あたしな















ー結婚するねん


残響のようなあの声が、いつまでもいつまで、消えることなくこの胸を切り刻む。
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