ただ抱きしめていて(立人と花鹿)
この先に待つ幾つもの出会いを経ても、きっと花鹿以上に大切に思える存在は現れないだろう。これは根拠のない確信で、他人からすればとても不鮮明なものだ。でも私たちふたりには、揺るぎない鮮やかな想いなのだ。
「ねえ、立人」
「ん?」
互いに預けた背中。変わらないトーンで呼ばれた名前にいつも喜びを隠せない自分。
「この先、どんなに素敵なひとに出会っても、私の立人でいてくれる?」
彼女からの言葉はいつからか自分だけのものだった。自分に向けられる愚かで愛しい愛しいものだった。
「私はずっとお前のものだよ。ずっと、お前だけのもので、お前以外はいらない」
私の言葉に彼女は何も言わなかった。ただ私の背中に体を寄せて抱き締めた。速まる互いの鼓動が伝わってしまいそうなほどすき間なく。
「お前以上なんて、もう私にはないんだよ」
どんな言葉でも言い表せないほどに、ただただこの一人が大切で。離すことはできないし、離れることもできない。