ぬくもりに出会う日(神田とリナリー)
激しい雨のなか、傘もささず地面に座り込んでいたその人を、私はなんだか寂しく思った。
「どうしたんですか?」
顔をあげたその人は、とても綺麗な狼。鋭い眼差しの奥は深い色、どこまでいっても揺らぎなくて私は魅入ってしまう。何も言わないその人は、ただ魅入るばかり私の視線に寛容だった。
「風邪、引いちゃいますよ」
どうしていいかわからない私はおもむろに言葉を告げるだけ。その人はやっぱり何も言わないが、ゆっくりと私に手を伸ばしてきた。私は少し驚いて、でもその手を両手で包んだ。怖いくらいに冷えた肌に震えてしまいそうだった。
「冷たい、ですよ」
「……あんたはあったけぇな」
はじめて聞いたその人の声は低く響いて、私のなかに入り込む。微かに握り返してくれたその手に、私もまた強く握り返してしまった。雨に濡れた顔ではわからなかったけど、その人は少しだけ顔を歪めたんだと思う。とても、やさしく。
「あなたも、本当はあったかいんですよ」
私の言葉にその人は握る手を強くした。隙間無く触れ合った肌からは、ほんの少しだけ、ぬくもりを感じた。