☆敵わない 俺の大好きな恋人は足を引きずりながら来てくれた。 …すごく辛そうで、あれくらいがちょうど良いなんて言った自分を恨みたくなる。 「カイト…うっ!」 すぐにカイトに駆け寄ろうとするが、ルキが離してくれそうにないため敵わない。 「逃がさないよ、レン」 「いやっ…離して!」 「そうだな、カイトがここまで来れたらね」 わざと屋上の端まで移動する。 …カイトが足を怪我してるって分かってて言ってるなんて…ひどい。 かといって、力で勝てるはずもなく。 「……っ」 「止めてカイト…!!俺のためにそこまでしなくていいから…!!」 「嫌だ!!レンが嫌がってるのを黙って見たくない!!」 強い青の瞳に射抜かれ、自然と心の中で願った。 ―――助けて!! その願いに答えるように、カイトは足早に俺の元へ来てくれた。 手が届きそうなくらいの距離まで来ると、今まで縛られていた身体が自由になった。 そのままカイトの腕の中におさまる。 とても心地良くて安心する優しさで包み込まれる感覚にやっぱり大好きなんだと改めて実感した。 「レン…無事で良かった」 「カイト…カイト…っ、足は大丈夫?」 「無事で安心したら…痛みなんて忘れたよ」 見つめ合ったらまた、抱きしめられる。 背中に手を回しながら、周りを眺めれば、ルキの姿は見えなかった。 …ルキ、許してくれたのかな? 「カイト君…やっぱり君には敵わないよ」 そっと呟いた声は誰にも届くことなく消えていく。 END |