バレンタイン | ナノ






差し出されたカップを覗きこんで、恋人は舌を打った。

「趣味わりい」

彼専用の深い緑色のマグカップの中に波々と注がれているのは、濃くてどろりとした焦げ茶色の液体だ。確かに見ようによっては不気味でもあるが、中から漂う甘くて濃厚な独特の香りがあるのでそう得体の知れないものでもない。特に、甘いものの好きな静雄に嫌がられる理由はなかった。

「なんで? せっかく用意したのになぁ」

渋る彼の手にカップを半ば押し付けるように渡して、肩を竦める。大仰なリアクションに対して、静雄もわかりやすく眉根を寄せた。

「どの口で言ってんだ。全部わかってんだぞ。隠す気ねえくせに」

けっと吐き捨てた静雄の目線の先には、様々な小箱があった。一つ一つ丁寧に剥いて折りたたんだ包装紙も、脇に積んである。色とりどりの鮮やかなリボンが少しだけ目に痛い。

「何が入ってるんだかわかったもんじゃねえ」

「わかってるって言ったくせに」

ふふ、と笑み零せば、そういう意味じゃねーよと言って静雄はこっちを睨む。ああそう、そうだね。わかってるよ。ただ君の興味を惹きたかっただけだ。

部屋の隅に積まれた綺麗なゴミの山。それらが包みこんでいたものを、抱えていた想いのことを、静雄は言っているのだ。何が入ってるんだか、確かにわかったものではない。けれど何がそこにあったとしても、自分には関係のないものだった。大事なのは想いではなく物質だ。大事な想いは一つだけ。

ぐいっと静雄がカップの中身を煽る。口の端についたチョコレートを、親指で拭ってやると、少しだけ得意げな表情を見せた。結局は彼もまた、共犯を楽しんでいるんだろう。

彩り豊かな紙やリボンや箱に包まれたそれらのことを、臨也は考えた。一体いくつが本気でいくつがまがい物なのか。もしかしたら中には、自分には想像もつかないほど真摯な感情があったかもしれない。しかしもうどうでもいいことだった。それらは一つ残らず、彼の胃の中に溶けていくのだから。