嗜好性 | ナノ






彼とは食事の趣味が合わない。

食欲は性欲に関わるとも言うが、ならば食嗜好はどうなのだろうか。食材にこだわる自分と、即物的で味の機微に無頓着な静雄。成る程、時に丁寧すぎると言われる愛撫も、良ければなんだっていいとぼやく言葉も、食べ物を前にしたときの自分たちとそう大きく変わりはしないのかもしれなかった。だとすれば、食において自分たちがわかりあうことはそう難しいことではないのかもしれない。
そもそも食に例えるのなら、自分が捕食者で彼は獲物だ。ここで大事なのは、美味いものを食べた牛は果たして美味いのか、というところだろうか。

「っい、おい!」

頬を摘まれ眼下を見下ろすと、ジロリと下からねめつけられた。抗議の声は掠れて力がない。視線を変えた拍子に繋げたままの下肢が動いて静雄は、ふる、と小さく身じろぐ。
改めて見下ろした光景に臨也は興奮から目眩を覚えた。ほんのりと色づいた全身は熟した果実と大差ない。ああ絶景かな。
ぎゅうと眉根が寄るのは怒りの合図なのだろうが、赤い顔で生理的に潤んだ眼では煽るぐらいの効果しかないということを、こいつはわかっているのだろうか。

「しゅうちゅ、しろ……っ」

ああどうやら彼は正しく自分を理解していたようだ。誘われるままに引き寄せられて唇を合わせる。そういえば甘いものは特別好んでいたなと思いながら腰を高く上げた。それならば胸焼けするぐらいに構ってやろうじゃないか。