はちみつ | ナノ





休日の臨也の朝は早い。普段が時間に拘束されない生活をしているせいか、休日に昼過ぎまで寝ていたいという欲求はあまりなく、どちらかといえばせっかく開けた一日を無駄にしたくないという思いから、よっぽど疲れていない限りはきちんと目を覚まし朝食の支度をするようにしていた。
休日の朝食の準備はもっぱら臨也の役目だ。二人で特に話合ったわけではないが、過ごしていく内に自然とそうなった。休日の前夜は互いに調子に乗るため、静雄の負担が大きいのだ。
焼きたてのホットケーキにバターを乗せて食卓へと運ぶ。静雄の作る朝食は和食が多いが、臨也はフレンチトーストやホットケーキのようなものを選ぶことが殆どだ。なんてことはない、お互い相手の好物を作ることが多いというだけの話だった。
皿よし、サラダよし、机の上のグラスにはたっぷりの牛乳を注いだ。朝食の準備は万端だ。
「できたよー」
「おー……」
ソファでうとうとしている静雄に声をかける。寝起きすぐの頭はぼさぼさで、瞼も重そうだ。昨夜は長々と焦らして無理をさせたから寝不足なのだろう。心なしか声も掠れている。
「「いただきます」」
食事が始まると真っ先に静雄の手は中央の蜂蜜へ伸びる。瓶に並々入った黄金色がとろりとパンケーキ全体にかけられた。生地にも砂糖が入っているのに甘すぎではないだろうかと思うが、実際食べてみるとそれぐらいで調度いいことは臨也も知っている。無言で渡された蜂蜜を受け取って、自分も彼に倣った。一口切り取って口に運ぶ。うん、上出来。
「あ、」
前方から聞こえた呟きに顔を上げると、静雄が蜂蜜を腕にこぼしていた。ホットケーキにかかっている分がフォークから垂れたのだろう。ぼんやりしたまま食事をするからそんなことになるのだ。
(うわ)
濡れた腕を上げ、肘まで垂れた蜜を下から掬うように舐め上げる。指先の一本一本まで唇に入れる姿は、朝から見るには少々刺激の強い光景だった。
「……ベタベタする」
臨也の視線に気付いているのかいないのか、静雄は不満そうに口を尖らせる。
布巾は臨也の手元にある。言外に寄越せと言っている視線へ向けて、臨也は会心の笑みを作った。
「舐めてあげようか?」