爪やすり | ナノ






テレビを見る自分の隣で臨也は爪を磨いている。
金属でかたいものを研ぐとき特有の細くかすれた音が耳についた。
丁寧に何度も繰り返し同じ動作をくりかえす手元を眺めながら、なかば呆れたような視線を静雄は臨也へ送る。

「よくやるよな…爪なんて短ければいいだろ」

「だめだよ、切っただけだと切り口が尖っちゃうでしょ。そしたら危ないじゃない」

予想外に真剣に注意され、静雄はぱち、と目を瞬かせた。

「そうか?」

「まあそりゃ、シズちゃんは手入れしなくてもいいかもしれないけど…」

そう言ってすっと人差し指と中指をそろえて掲げると、その長い指をくいっと曲げて見せる。
臨也の意図するところがわからず怪訝そうな顔の静雄に向かってさらに一言。

「ナカ引っ掻かれたら痛いのシズちゃってあいた!」

「いきなり何言ってんだよ!セクハラだ!!」

「うわーシズちゃんがセクハラとか言っちゃうのかわいい」

「きもい死ね」

「ひどいなぁ」

憎まれ口を叩きながら肩口に頭を寄せてくる恋人に臨也はそっと笑いをかみ殺す。
手放されたやすりがガラス製のサイドテーブルにあたってカツンと音を立てた。


/爪の手入れをしてる臨也が好きで