京介と拓人


「京介。それはね、恋だよ。」
ニコリとベッドの上で兄さんが笑った。俺の顔がぶわわと一気に顔が火照る。分かりやすいな〜京介は、と楽しそうに話す兄さんの声はシャットダウンされている。え、は?まじかよ。俺があいつを?キャプテンを?てか男を?

よく泣くあいつを見ていたら気持ちがモヤモヤして、何とかしてあげたいけど出来ないからまたモヤモヤする。部活に行っても無意識にアイツを探して、アイツが幼なじみと喋ってる姿を見ていたらイライラする。それだけ。
「それは十分恋に値すると思うけど?」
「そんなわけ…。」
ない…はず。



昨日の兄さんの言葉が心隅にひっかかりながら、いつものように部室にやって来た。まだ誰も居ない無駄に広い部室は怖いくらい静かで、ぼーっと部屋を眺めていた。
「早く来すぎたか。」
最近この部室に来ることが習慣のようになってきているのが気に食わない。周りの部員も警戒心を張っているけれど、俺が居るのは当然と思い始めている事も嫌だ。"剣城京介"はなんだかんだいって、雷門サッカー部の一員だ、と。

あー、なんか考えてたらイライラしてきた。部員が集まるまでまだ時間がありそうだな。気分も悪いし、寝たらスッキリするかも。そう思い、俺は静かに双眼を閉じた。



ふわり、と安心する暖かい香りが鼻孔をくすぐった。微かに涼しい風が前髪を揺らす。不思議に思い目を開ければ、アイツがうちわで仰いでいた。
「!?」
「あ、おはよう。」
こんなとこで寝たら暑いだろ?フっと笑うその笑顔はいつもとは違う優しいもので。いつから仰いでいてくれたんだろう、アイツ…神童拓人の首筋には少し汗が滲んでいる。
そんな姿を見たらまたイライラしてきた。いやモヤモヤかも。
ばっ、と勢いよく神童からうちわを奪い取る。目の前の神童はキョトンと目を丸まらせて固まっていた。
「つ…る」
ぎ。と言われる前に、俺がうちわを神童に向かって仰ぎ始めた。自分にじゃなくてアイツに、神童に。なんで俺がこんなことしてんだろう。意味わかんねー。
そんな事も知らずに、神童は涼しそうに俺の風を受けていた。
ゆらゆらと風にたなびく軽い髪は、ふわりふわりと優しく動く。

「なんだか、懐かしいな。」
「?」
「幼いときにも霧野がこんな風に仰いでくれた。」

ふふっと笑うその表情は本当に嬉しそうなもので。
そんな笑顔を見たら余計にイライラしてきた。
胸くそ悪い。なんで俺が居んのに幼なじみの話すんだよ。さっさとここから出よう。そう思って立ち上がろうとした時。
静かにアイツが「けど剣城のが優しい風な気がする。」と微笑んだ。あり得ないくらい優しく。

一気に顔が熱くなる。熱くなる意味も分からないけれど。ああもうこいつと一緒に居たら変になる。そうだ、これは。

「恋なんかじゃねーから。お前といたら変になる!!」
「え?」
そう言って俺は勢いよく立ち上がり、部室から出ていった。後ろで神童が仕方なさそうに笑っていることも知らずに。


恋と変の微妙な違い


(あれ、早いな神童?どうした嬉しそうな顔して。)
(あ、霧野。いや、可愛い一年だと思って。)

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