南雲と涼野


毎日この時間、この場所で。本を見つめるあいつ。横顔しかしらねえけど、とても綺麗で整った顔。




(あ、また居る。)
学校が終わり、帰宅部の俺は何もすることがなくてすぐに帰る。最初は自転車に乗って帰宅していたんだけど、ある日。あいつを見つけた時から俺は徒歩になった。


それは俺が偶然自転車をパンクさせて、歩いて帰らなければ行けなかった時。偶然小さな本屋を見つけた。それはとても目立つような店ではなく、どことなくレトロな雰囲気をかもし出している一つの店。今までずっと閉まっていると思っていたのに、その時は中に人影があった。少しの驚きと溢れる興味の気持ちで中を覗いた。すると、見えていたの影はたくさんの山積みの本と一人の少女の影だった。
店の奥の椅子に体育座りをして、自分の前にある小さなテーブルに本を置いている。ぺらりとページをめくる手が、指が、とても綺麗で。下を向いているからだろうか、横の髪が前にかかるのを慣れた手つきで耳にかける仕草でさえも俺の視線を釘付けにした。

いくらか中を見て、はっと我に返る。帰らなきゃ、という気持ちと若干の罪悪感(覗き見っぽいからだろうか)を抱え、すぐさまその場から離れ走って家に向かった。


通学路にある小さな本屋。そこで本を眺める一人の影。
その日はそればかりが脳裏に残った。



それから俺の興味はあの女へと向かった。毎日その横顔を見るため、徒歩で帰るようになった。






「あぁ、あの古い本屋?」
放課後、ヒロトにその事を話してみればふむと少し考えてすぐ笑顔を浮かべ知ってるよ、と言った。
「マジかよ!!?」
「あの子はね、確か隣の駅の学校に通ってたよ。」
隣の駅、わざわざあそこまで来ているのか、とか一人で思っていたらヒロトが気になるの?と怪しい笑みを浮かべた。
「ち…ちげーよ!!んじゃ、また明日な!!」
嫌なところを突かれ、俺はすばやくその場から走り逃げる。ついでにこのまま鞄を取って帰ろう。
そしていつの間にか。俺の脳内で帰るという目的から、あいつに会おうという目的に変わっていたのに気がついたのは、その本屋の目の前に着いたときだった。


なんでここに居るんだろう?
そう思った時はもう遅かった。俺は紛れもなくあの本屋の前に立っていて、どうすることもなく固まっている。中から人の気配がしないところを見ると、どうやら閉まっているようだ。
店も閉まっていて、何もする事はない。それ以前に別に本屋に来たかったわけじゃないから、すぐにでもこの場から立ち去っても構わないはずだ。だけど俺は無意識に中を覗き込み、誰か居ないかと探していた。

しかし、やはり中には誰もいない。そうして謎の脱力感を心のどこかで感じながら、一歩店から離れる。
「なんつーか…、俺は変質者かよ!!!」
「本当だな。」
独り言だったつもりが、後ろから思わぬ返事をくらう。驚きのあまり変な奇声を発しながら後ろを振り向けば、見覚えのある人物が立っていた。
「今日は定休日だ。看板に書いているだろ?」
呆れたようにそういうコイツは、紛れもなく俺がいつも見ていた影だった。
近くで見ると、大きな瞳から可愛らしい印象を浮かべる、しかし思ったより背が高くて全体的にスレンダー。声はそこらの女子よりは断然聞きやすいし、落ち着いた口調がなんだか新鮮。

そう。俺は一瞬で目の前のコイツに一目惚れしてしまった。
最初はただの好奇心、だったはず。いや、あの時から気になっていたとすれば、今は完全に好きだと言える…気がする。
そんな事を頭でグルグル思っていたら、アイツがいきなり俺の名前を呼んだ。
「南雲!!」
「はっ!!?」
すっとんきょうな声をあげれば、アイツは少し頬を緩ませ面白い奴だな、と笑った。
「鞄に名前のタグが付いているからな。違ったらどうしようかと思ったが…合っていたんだな。お前がさっさとそこを退けないから、というか私の話を聞いていないから呼んだんだ。…って、今も聞いているか?…おい。お前…、南雲。」
「お茶でも行かねぇ!?」
そう勢いよく叫んだ。そして真っ白になる頭。沈黙の三秒。


…何言ってんの俺?
思わず自分で突っ込んでしまった。というか名前を呼ばれたところから頭がパニックになっていた気がする。何も覚えていない。…と言えば嘘になるな。悲しいことにベタな誘い方をしたのだけ覚えている。
今の誘い方は自分でも無いと思う。うん、さすがに。そんな事を思いながら、恥ずかしさで熱くなる顔を背ける。
できれば今から走って逃げ出したいけれど、それは男としてどうかと思うし…とかゴチャゴチャしていたら。
「変なやつだな。」
と、真顔でそう言われた。
「まず誘い方が古い。今どきお茶だなんて…、なんだ?80年代ドラマでも見すぎたか?」
つらつらつらと厳しい突っ込み。というか批判?さすがに俺のハートもズタズタになったところで、驚きの一言。
「…まあ、それ以前に。最近は男にもナンパをするのか?」
「……は?」
まて、ストップ、聞き間違い?
信じられない単語が聞かされた。
は、おとこ?
混乱していた頭がさらに混乱する。しばらく何もできないまま、目の前に居るコイツを凝視する。どうみても女、にしか見えないんだけど。いや、よくみたら男?胸無いしな…いやいやでも、そんな事あるはず…。
ブツブツ呟いていると、鞄から何かを取り出してそれを見せつけるように、俺の鼻の先まで近づけた。
「涼野風介。れっきとした男だが?」
近すぎる生徒手帳には、ちゃんと顔写真と名前、性別が書いてあった。
「おとこぉぉ!!??」







「で、それからどうなったの?」
ニコニコと片手に持っているジュースのストローをくわえながら、ヒロトはそう聞いた。
別にどうもなってねーよ、としらばっくれれば嘘ばっかり、と頬を膨らませた。
「俺ね、最初から知ってたんだ。晴矢が気になってた子が男子だってこと。」
なんだって。それなら先に言ってくれよ。すっげー恥ずかしい思いをしたんだからな!!という今にも口から出そうな気持ちを抑え、俺は冷静さを保つために、なにくわぬ顔でヒロトのサンドイッチを摘まむ。けどヒロトは特に気にせず話を続ける。
「それでさ、友達なんだよね。風介と。」
「まじかよ!?」
さっきまでの気持ちはすぐに壊れた。驚きを隠せない俺の表情を見て、ヒロトは満足そうに笑みを浮かべた。やられた…。そう思いながらヒロトに話を進めるように目で促せば、ニコリと笑いまた話を始めた。
「で、メールが来たんだよね。」
「…どんなだよ。」








そして今日もまた。俺はあの本屋の前に居る。でも、何日か前の俺とは違う部分がいくつかある。それは、
「…あぁ、君か。」
「よぉ。」
「ナンパ癖は直ったのか?」
「過去は振り返んねーの。」
ちゃんとコイツに会いたいから、っていう理由。



どうやら一匹狼らしいコイツ…風介は、俺と話した事が嬉しかったようで。(普段あまり話し相手が居ないからだろう、とヒロトが言っていたけど。)唯一の友人、ヒロトと俺が同じ制服だったから余計に、風介が俺の事を気に入ってヒロトに色々質問攻めしたらしい。で、どうせなら意味は違えど二人とも両思いなんだから仲良くすればいいじゃん、という提案から毎日あの本屋で会うことになった。というか勝手に俺が会いに行っているんだけど。


それに会うといっても、先に本屋で本を見ている風介の横で、俺が後からやってきて適当に違う本を一緒に読むという静かなものだ。

特に何をするということもないけれど、俺はこの時間がとても落ち着く。


今は友達からでいい。
風介が俺のことを友達と認めてくれているかは分からないけれど、認めてくれてるまで待ってみようかと思う。
そしていつか気持ちを伝えたい。あのナンパは間違いじゃなくて…。




一目惚れです




(一目惚れってどう思う?)
(は?)
(…なんでもねーよ。この本の話。)





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こんにちは39様、望月です(^^
この度は企画参加ありがとうございました!

とっても素敵なリクエストありがとうございました!
こんなシチュ私が見たい…!!とすごく感じました…いいですね、ナンパネタ!!

そして完成を見直すと、なんだかナンパネタを活かせてない感がプンプンしますね。うおお素敵なネタがぁぁ…(-_-`;


最後になりましたが、本当にフリリク参加ありがとうございました!これからもよろしくお願いいたします!(^o^
望月拝

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