南雲と涼野


そういえば、クラスの女子が、こんなことを言っていた。
「昨日さ、風邪で休んじゃったじゃん?そしたら、彼氏や友達からメールが来て…。ほんと嬉しかったー。」

私はケータイを持っているけれど、そんなに使わないし、メールなんて数回しか使ったことがない。晴矢とはメールをするが、相手の一方的なものばかり。と、いうか私が返信をしないからそこで止まる。最初は晴矢も怒っていたが、最近は別になにも言わなくなったし、メール自体しなくなった。
それでも、晴矢から愛されてる自信があったから何も不満では無かった。




と、夢の中でそんなことを思い出した。
むくりと起き上がれば、もう日も高くお昼時。自分の手を首に当ててみる。まだ熱い。
どうやら風邪をひいてしまったらしく、今日は1日休むことにした。ぼんやりと部屋を眺めると、いつもと変わらない光景なのになぜか、ひとりポツンと取り残されたような錯覚を覚える。
風邪をひくと寂しくなるのかもな。
そう1人で納得し、薬で眠くなるまで本でも読もうと机に手をかける。
「あ。」
ゴトリと落ちたのは本ではなく、昨日から電源を付けていないケータイだった。

真っ暗の液晶を眺めると、なんだか余計に寂しくなって電源を付けた。初期設定のままの待ち受けは、一分ごとに数字が変わるだけで何も起きない。受信メール0、着信0。
さっきあんな夢を見たからだろうか。少し、誰かから…晴矢からメールが来ている。なんて期待をしていたものだから、それを裏切られた気持ちが寂しく恥ずかしい。余計にぽっかりと心に穴が空いたような気分になって、ギュッと毛布を引きよせる。
「晴矢の…ばか。」
嘘。そんなことはない。ああまた私の悪いクセ。

私がメールをいつも返していれば、続けていれば、大丈夫の一言があったかもしれない。ぜんぶ自業自得。こんな時だけメールをよこせだなんて、ちょっと人肌が恋しいからって、そんな都合の良い事はない。
そう頭ではわかっているけれど、望んでしまう自分がもどかしい。

ポロリポロリと無意識のうちに涙が溢れた。涙というのは制御不可能で止めようと思えば思う程こぼれる。出てくる声を必死に堪えて、涙を噛み締める。こんなことで泣くなんて、私らしくない。らしくない。そう言い聞かせて、自然に出てくる雫をただひたすらに流していた。





気がつけばもうあかい光が窓から射し込んでいた。夕日に照らされて眩しい。ウトウトと思考を働かせていけば、手に温かい何かがあることに気がついた。まだ覚めていない頭で、ギュッと握り返してみれば優しく握り返してくれた。
「起きたか?」
優しくそう聞かれた。声の方を向けば、いつもの晴矢が居た。
「は…るや…?」
私の頭をそっと撫でながらそうそうと頷く。温かくて私より少し大きな手が心地よくて、いつも以上に優しく扱われるものだから思わず目頭が熱くなる。
「お前が風邪ひくなんて珍しいからな。授業終わったらすぐ来た。」
「…部屋に入れたのか?」
「おばさんに、風介のお見舞って言ったら快く入れてくれたぜ。」
「まぁ…晴矢だしな…。」
なんてことない会話だけど、とても安心する。たまに手を握りしめれば返してくれる。
そっと頭を撫でていた手を、目の端へ変えられる。
「お前…泣いただろ。」
「…なんで…」
「目、腫れてるし赤い。」
ゴロンと顔が見えない方に寝返りをうつ。見るなと呟けば、背中をポンポンと撫でられる。
「大丈夫、大丈夫。」
またそんな優しい声。また泣いてしまうじゃないか。
「俺が居るから。」




そうだ。
メールなんか、いらない。
それはいつものこと。
自然に君が、来てくれる。


だろう?




電波の繋がりより強い




(私が寝るまで、手、繋いでいてくれ)
(言われなくても、)

(軽いキスが落とされて、私は眠りにおちた。)


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