狩屋と霧野


霧野先輩はいつも甘い。
味覚的に甘いんじゃなくて、なんていうの。視覚的にも、ふわふわ風のようにたなびく髪は甘いし、横切った時の香りが甘い。
だから俺の中では『霧野先輩イコール甘い』という勝手な方程式が出来ている。
そんな霧野先輩の香りが好きかと聞かれれば、そんなこと無いと答えるだろう。けど、実際は結構好き。こんなこと言ったらぶっ飛ばされそうだけど、女の子ってあんな匂いじゃないの?多分。
ついでに言えばキャプテンもいい香りがする。甘くはないけど、落ち着いた香り。やっぱ金持ちは違うよな、いいシャンプー使ってんだろうな。外国産かな、フランスとか。いや別にフランスのシャンプーがいいとか知らないけど…。
「狩屋?」
はっ、と顔を上げると頭上には例の甘い香りの、
「霧野先輩。」

そうだ俺はシャンプーを買いに近くのスーパーにやってきたんだ。おつかいなんてキャラじゃないけど、特にすることもなくって引き受けた。ずっとしゃがんで棚を見ていたが、隣にあるカゴの中は空っぽ。空の軽いカゴを勢いよく回しながら持ち上げ、その場から立ち上がる。霧野先輩との視線がさっきより近くなった。そしてやっぱり、甘い香りが俺をくすぐる。
「シャンプー買うのか?」
「そうですけど。」
「へぇ。」
お前もシャンプーで悩んだりするんだな、と小さく笑った。あ、いま少しバカにしただろ!
「狩屋もお年頃だもんなぁ。」
「先輩と一つしか違いませんけどね。」
嫌味を一つ投げかけたけど、仕方なさそうに眉を下げるだけではいはいと俺をなだめる。くっそ、先輩ぶりやがってぇ。
「俺はシャンプーとか気を使わないから、何がいいか分からないな。」
「そのわりにはいい香りじゃないっすか。」
「え。」
「あ。」
前言撤回、んなわけないだろ!?ちょ、ニヤニヤしてんじゃねーよ!違うって言ってんだろ!普通の匂い!いい香りって別にそんなんじゃ…ああもう!
「狩屋もいい香りするぞ?」
「そんなんいらねーよ!」
赤く熱くなる顔を見られたくなくて、必死に顔を背ける。けど、霧野先輩は笑いながら俺の頭をぐしゃぐしゃにする。じゃ、俺もおつかいだったから。またな。そういってレジの方に向かっていく先輩。横切った時には、やっぱりあの香りが。
俺はだんだん遠くなっていく先輩の後ろ姿と、カゴの中に入ったシャンプーとを見比べて、どうしようかと考えた。


(次に霧野先輩に会う時は、俺も同じ香りだったらなんて、ちょっと乙女すぎるよな。)


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