狩屋と霧野


バスの中、ムカつくくらい嬉しそうなオーラを出しながら霧野先輩は俺の隣に座った。なんで俺の隣に来たんだよ、キャプテンの隣に行けよと言おうとした。けれどそれより早く、先輩が素晴らしく明るい笑顔で「今日は機嫌が良いんだ」と笑った。

「そんなの見りゃ分かりますよ。」
こんな花を撒き散らすような笑顔で、誰が不機嫌だと思うんだ。そうだよな、と目を細めてまた笑う。多分今の先輩にどんな侮辱の言葉をぶつけても、笑ってあしらわれそうだ。まぁ、先輩をこんなにさせる人物なんて、たった一人しかいないのだから予想はつく。
「なんかあったんですか?…キャプテンと。」
あんまり聞きたくなかった。しかし先輩から"よくぞ聞いてくれました"と言わんばかりのオーラが、やっぱり聞いて欲しかったんだと俺は確信した。それがさ、と楽しそうに先輩は話始めた。
どうやら久しぶりに今日は、キャプテンの家に泊まりに行くらしい。今から向かう中学校との練習試合が終われば、すぐ家に向かうという。それが今から楽しみで仕方ないと先輩は相変わらず花を散らせながら言った。
「昔はすごい頻繁に行ってたんだけどな。やっぱ中学生となれば忙しくて、」
「へぇ。」
「あいつゲームとか疎いからさ、いっぱい持ってきたんだ。」
「ふぅん。」
それでないつもはうんたらかんたら。嫌になるくらいのマシンガントークに耳を塞ぎたくなった。なんだよ。なんで俺が先輩のノロケ話を聞かないといけないわけ?こんな楽しそうな先輩、俺は見たことないのに。キャプテンは家に呼ぶだけでこんな表情をさせられるのか。じゃぁ俺が家に呼べば…いやそうじゃない。キャプテンが、キャプテンだから、先輩を喜ばせれるんだ。
そんなこと、とっくの昔に分かっていたけれど、こう、改めて、見せつけられると、
「うっざ。」
「え。」
「そんなニヤニヤして、霧野先輩気持ち悪いです。俺なんかの隣より、さっさとキャプテンの隣に行って、その間抜けっ面見せてあげたらどうですか。」
窓を見つめながら、俺は横に座っている霧野先輩に向かって言う。隣で舞っていた花は消え、一気に淀んだ空気に包まれた。いつもなら冗談っぽく言う言葉も、気持ちが入ればひどく醜い言葉となって人傷つける。うん、絶対さっきの俺はとても醜い顔をしていただろう。黙り込んだ先輩を横目で確認すれば、顔を俯かせていてゆっくりと立ち上がってから小さな声でごめん、と言った。
思いもよらなかった言葉に、俺は驚き視線を先輩に向けた。違う、そうじゃなくて。
霧野先輩の表情は辛そうで、申し訳なさそうで、泣きそうで。
(多分キャプテンも見たことないだろう表情で。)
じゃ、と席を離れた先輩は前に進み違う席に座った。どこに座ったかは分からない。

ああもうなんで。こう俺は…。
悔しくもどかしい気持ちが溢れる。なに言ってんだよ。なに妬いてるんだ。あんな表情見たくなかったのに。小さくため息をついて、俺はぎゅっと熱くなりはじめた瞼をつむった。


あなたが幸せならそれでいいって言えるようなおりこうさんに私はなれないの


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