狩屋と霧野


「ねぇ、先輩お腹減ってません?」
「ん?あぁ、まあ。少し。」
部活の休憩時間の時に、横でドリンクを飲んでいた霧野先輩にそう声をかけた。いきなりそんな事を聞かれて不思議そうな顔をしたけど、空腹なのは事実のようでこくりと頷き首をかしげた。
「なに、狩屋なんか持ってんの?」
よくぞ聞いて下さいました。そうなんですよ、とタオルの横に置いていた小さな巾着を開く。俺には似合わないピンクと白のパッチワークが施されたその巾着の中には、可愛らしいキャンディーがたくさん入っていた。俺の手元を興味深そうに見つめる先輩へ、はいと一つ取り出して渡す。ころんと小さなそれは先輩の手の上で転がった。
「飴?」
「そうです。」
小さなキャンディーはいちごミルクとピンクの文字で書かれていて、見た目からして俺らしくない。それはそれは本当に可愛らしいものだ。
「ありがとう。」
嬉しそうに微笑んで、包みを開けた。中は薄桃色の可愛らしい星のキャンディー。ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐる。カラン、と先輩の口の中に飴が落ちる。星が先輩に落ちた。
うん美味しい、と先輩ははにかんだ。俺もなんだか食べたくなって、一つ包みを開ける。なんでだろ、先輩が開けた時の方が甘い香りした気がする。しかし口に頬張ればいちごの香りで包まれ、後味はほんのりミルク。
俺は無意識のうちに頬を緩ませていたようで、先輩に「お前もやっぱ中1だよな」とあり得ないくらい優しい声で言われた。
「どういう意味ですか。」
「そのままの意味。」
質問した俺の答えになってない無意味な言葉だけ残し、先輩は得意気にそう言ってグラウンドの方へ走っていった。休憩時間ももう終わり。

モヤモヤ。
先輩は俺の知らない感情ばかり撒いていく。今も、前も、多分これからも。先輩と話すたびに俺の心の中では、とても長い毛糸が絡まってほどけない、そんな感じにモヤモヤするんだ。

だって、今だってわからないんだ。なんでこの飴を買ったかなんて。こんな可愛らしいピンクの苺の飴を買ったかなんて。
手のひらにちょこんと乗っている飴を見つめる。
なんだかな。あー。うん。やっぱり、やっぱり。そうだよな。
納得した俺は、包みを開けて再び口に頬張る。無果汁なのに苺が香る。ああやっぱりそっくりだ。これっぽっちも果汁が入っていないのに、俺を包み香らせるところが。
ガリッ。
小さな飴をかみ砕く。まだ口に残る味がもどかしい。


無知という名の罪をご存知?
(知らないことが多すぎて)


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