霧野と狩屋


偶然家が近かった俺と狩屋は毎日一緒に学校まで行っている。いや、わざと時間を合わせた訳じゃないんだ。この前偶然少し早く家を出たら狩屋とばったり会ったので、それから俺はその"少し早く"の時間で行くようになった。それだけ。
二人は特に何か話すこともないし、話しかけることもしない。俺は音楽を聞いて狩屋はその後ろをついてくるだけ。けれど気まずいとも感じなくて、逆に後ろについてきている後輩に少しだけ安心を覚えていた。

そんなある日、いつものように一緒に学校へ向かっていたら、狩屋が「あ。」といきなり叫んだ。
「どうした?」
立ち止まって振り返り、狩屋の方を向く。鞄の中をごそごそと、中身がぐちゃぐちゃになるんじゃないかと思うくらいかき回し何かを探していた。そして一通りかき回した後、肩をすくめて「お弁当忘れちゃったみたいです」と笑った。


「さっさと決めろよ。」
「俺、意外と優柔不断なんですよね〜。」
家まで戻るには中途半端な距離だったから、コンビニで昼食を買うことを進めた。1人で行くのは怖いと(先生に見つかると嫌だと)言ったので、仕方なく俺もついていく事にした。
しかし連れてきたのはいいけれど、こいつは10分程度小さいコンビニの中をぐるぐるぐるぐる行ったり来たりを繰り返している。
「狩屋、お前早く…」
「ちょっと待って。パンに決めた。」
菓子パンのコーナーで狩屋が立ち止まり、再びじっくりと一つ一つを眺める。おい、さっきの10分間はずっとおにぎりかパンで悩んでいたのか。これじゃ時間がどれだけあっても足りないだろう。痺れを切らした俺は適当にパンを一つ取りこれを食べろ、と狩屋に差し出した。
「…メロンパン?」
「なんでもいいだろ、さっさと買えよ。」
ん〜、とメロンパンを見つめ他のパン達を見る。メロンパンとパンコーナーの棚を交互にじっくり見比べ悩んだ結果、よしと狩屋が決めた答えは「おにぎりとエクレアにします」だった。


「変なの。」
「何が。」
「チョイスが。」
「え、俺の勝手でしょう。」
満足げなその表情は、いつもの狩屋からは信じられないほど幼くてちゃんとした"中学一年生"のものだった。あんなにパンと悩んで、おにぎりとエクレア。意味が分からない。けど、よく考えれば狩屋はメロンパンと他のパンを見て悩んでいたんじゃなくて、エクレアを買うか買わないかを悩んでいたんじゃなかろうか。思い出してみれば、横はスイーツ系の売り場だったような…。もしやこいつ。

「なぁ、今週の土曜は暇か?」
「え、なんですか。後輩いびりでもするんですか。悪趣味だな〜。」
「俺さ、すごいケーキの美味しいカフェ知ってんだけど。」
「…。」
「暇だったら連れていってやってもいいけど。」
「…。」
無反応な狩屋の反応が気になり、少し振り替えって見てみれば、狩屋の足は止まっていて顔を俯せて何やら独り言を言い、考えているようだった。気にせず歩き始めれば、少ししてから後ろから狩屋が走ってきて、すれ違い際に、霧野先輩がどうしてもっていうならついていってもいいですよ、と生意気にそう言った。そのまま勢いよく俺の前を走り抜けた狩屋の後ろ姿は、なんとなく、


あんな生意気な口をきいても、恥ずかしそうで嬉しそうな顔で言われても、迫力は皆無だけどな。そう思いながら、どこのカフェに行こうかと考えた。


新発見は俺だけに


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