狩屋と霧野


「霧野せ〜んぱい?」
あれ、今日は1人ですか?神童先輩は?あ、お休みなんですか。そっか、じゃあ1人でお昼は寂しいですよね。俺も一緒に食べていいですか?
いきなり俺の視界に入ってきたと思えば、つらつらとこいつは勝手に話し始め、最後には俺が有無を言う前に自分の弁当を広げ始めていた。

毎日俺は神童と一緒に部室で昼を取っている。最初は教室で食べていたのだけど、なんだかがやがやした教室は落ち着かなくて最近は人目の無い、自由にできる部室で食べていた。

そして俺は神童が休みの今日も、いつものように部室に来ていた。別にクラスの友達と食べても良かったのだけど、なぜか今日はそういう気分じゃなかった。

そういう時に限ってタイミングが悪いんだ。

俺、ご飯よりパンのが好きなんですよね〜。あ、霧野先輩のお昼はサンドイッチじゃないですか。お洒落ですね〜。霧野先輩のイメージとぴったりです、いや逆に肉ばっかでもぴったりですけど。
どうでもいい事をこいつは途切れることを知らないひとつの波のように話してくる。なんで嫌いな奴と飯を食わないといけないんだ。相づちを打つことも無く、俺は黙々とサンドイッチを食べ進めていた。
残りもわずかとなったところで、つまらなさそうに狩屋が「本当に霧野先輩は俺の事が嫌いですね。」と言った。

「嫌がらせばかりする後輩を好きになれる訳ないだろ。」
「あっはは。やっと喋ってくれたと思えば、冷たいですね。」
何が面白いのか全く分からない。こいつと居たらイライラする。パクッと最後の一口を口に頬張り、鞄に水筒やらなんやら詰め始める。早くここから出たい。そんな事を考えていたら、狩屋はニヤニヤと気色の悪い顔で「俺は先輩の事、結構好きなんだけどな。」と呟いた。

「は?」
突拍子のない言葉に俺の思考が止まる。何考えてんだこいつは。自分の事を嫌いだと言っている奴を好きだと?変な奴だとは知っていたけれど、ここまで変な奴だとは。異様な物を見るような目で、俺は目の前の大嫌いな後輩を見る。するとなぜか嬉しそうな表情で、喋り始めた。

「だって霧野先輩はディフェンスとしてもとても良いプレイヤーですし。俺の動きに付いてこれるやつなんて居なかったんですもん。それだけど霧野先輩はちゃんとついてきてくれるし、だから俺もついていってあげようと思うんです。分かります?一応認めてるんですよ。あと先輩から聞いた話なんですけど、成績もいいらしいじゃないですか?運動も出来て勉強もできるなんて、非の打ち所が無いですよ。かっこいいですよね、尊敬します。」

狩屋は前の日から考えていたのかと思うくらい、水が流れるようにさらさらとそう言った。何が起こったか理解できなくて、目の前の狩屋を見つめる。表情は変わらない、あの作り笑顔のまま。あ、俺いますごい間抜けな顔をしている気がする。狩屋は更ににっこりと口を弧のようにして笑った。

かっこいいですよね、って。そんな、え…あ、いや…。またこいつは…。
「せ、先輩をからかうな!」
そう大きな声で叫び、荷物を持って俺は素早く部室から出ていった。熱い顔は時間が経てば経つほど熱が上がる。なんであんなやつに言われて、何がかっこいいですよね、だ。ふざけるな。そう頭で思っていても、否定をしていても、ムクムク沸き上がるのは嬉しいという素直な気持ちで。



「やだな〜霧野先輩、あんなに顔を真っ赤にさせちゃって。」
ジョークって分かってます?クスクスと小さく笑いながら、狩屋はもう一度霧野の表情を思い出した。
信じられないとでも言うようなあの顔。恥ずかしさで自分を直視してくれなかったな。思いだせば思い出すほど…。

自分である事を考えた後に恥ずかしくなった。でもそれは狩屋自身の素直な気持ちな訳で。
(どちらかと言えばかっこいいより可愛いですよ。)
そして狩屋も少し頬を染めながら小さく誰にも聞こえないような声で、そう言った事は狩屋以外誰も知らない。


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