蘭丸と拓人


「いい風だよな。」
部室に行く途中、さらりと髪をたなびかせた風に思わずそう呟いた。いきなりこんな事を言ったから変に思われたかもしれない。少し後ろで歩いていた神童を横目で確認する。特に驚いた顔もせず、空を見上げながら確かにそうだな、と神童も呟やき立ち止まった。

途端ぶわっと大きな風が吹いた。俺は二つにくくっているから髪を押さえなくても良いけれど、神童は片手で髪を押さえて風が収まるのを待っていた。軽い髪はふわふわと風に浮かぶ。そしてそのまま空気と一緒になったかのように、ふわりとウェーブを帯びた髪はまとまった。

「こういう時は霧野の髪型が羨ましいよ。」
「くくってるからボサボサにならないからな。」
「俺のはすぐになるから。」
「そう?今もキレイにおさまってるよ?」
すっと手を伸ばし神童の髪を撫でる。ふわふわでサラサラ。少しだけシャンプーの心地良い香りがする。なんだか気持ちがよくて何度も何度も撫でていたら、神童が頬を薄桃色に染めて「恥ずかしいからやめろ」と小さな声で訴えた。


ふんわりとした髪
(そっと風に遊ばせて)


後で霧野の髪が触りたい。
そう恥ずかしそうに言ってきたもんだから、これはさわらしてあげるしかないよな。



タイトル/ひよこ屋

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