吉良とヒロト


「家に、帰りたくない…」
無意識に口から溢れた不満に、風丸くんが聞き返した。
「何かあったのか?」
心配そうに俺の表情を伺ってくる。風丸くんが俺を心配してくれるその姿に少し優越感を感じたが、すぐにそんな気持ちは俺のケータイのバイブ音で吹き飛んだ。



家から電話があって急いで帰ってきた。けど、やっぱり家に入りたくない。数秒悩んだ結果、一つ気合いのため息をしてドアノブに手をかけた。
「ただい…ま」
「おかえりー!」
最後の言葉はリビングの方からの声に掻き消された。と、思えば一気に視界がぐらつき息苦しさに包まれる。
よろめきながら今の状況を判断する。そして理解できた瞬間、俺は後ろに転んだ。─いや、押し倒された。

「やめてよ兄さん…、苦しい」
「おかえりのチューするまで離れないよ、ヒロト」
目の前にはニコリと弧を描いたように笑いかける、俺にそっくりな青年。吉良兄さんの顔がすぐ近くにあった。
体を動かそうとしても手首を固定されていて、下半身は上からのし掛かられていて動かない。
どけて、と言っても全く表情一つ変わらせないで、先ほどと同じ笑みを浮かべたまま「キス」と口を動かした。
ああもうやだ、兄さんが来てから毎日こうだよ。
そう思いながら、仕方なく口を開け舌を出した。

近視相愛

いやらしい水の音が聞こえる、気がする。なんか意識が遠い。あー、考えたくないかも。
気持ちわる、早く退けてくれないかなーとそればかり考えていた。

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