南雲と涼野


「それで、ここはプラス5x」
「マイナスじゃねぇの?」
「…どこからそうなったんだ。」

晴矢は口を大きく開けてあくびを一つした。ちゃんと聞いているのか?私がわざわざ教えてやっているというのに。

晴矢が私に勉強を教えてほしいと言ったから、放課後二人でこうして残っているのだけれど。当の本人はやる気なし。何の為にしてやってるんだ。
もうすぐで帰らなければいけないのだけれど、どうしてもこの公式だけは覚えてほしい。
二人しか居ない教室は、窓ガラスにオレンジ色の夕日が反射していた。

「あれ、まだ居たの?」
ふんわりと笑いながらヒロトが教室に入ってきた。忘れ物しちゃって、といつもの笑みを浮かべながら近くにやってきた。
「晴矢が、勉強を教えてほしいようで。」
「へぇ。」
「…。」
向かい合わせに座っていた私と晴矢の横に椅子を持ってきて座るヒロト。広げていたノートと教材を見回して、ふんと一つ頷いた。
「ここ、俺も苦手なんだよね。」
「ヒロトが苦手なんて珍しいな。」
「俺だって苦手はあるよ〜。よかったら教えてほしいな。」
「別に構わないが…、なぁ晴矢?」
「…。」
晴矢の方を見てみれば、ムスッとしたまま何も言わない。誰から見てもすごく不機嫌なのがわかる。しかし無言は肯定と見なして、かけていた眼鏡を少し整えてヒロトに教え始めた。

「あぁ、そういうこと!」
「分かったか?」
「うん、ありがとう。すごい分かりやすかったよ。」
「いや、説明に自信が無かったから。分かってくれて良かったよ。」

自分の説明があっていたから少し嬉しい。自然に頬が緩んだ。途端。
「気に食わねぇ…。」
「は。」
そう口を開いたかと思えば、目の前にいた晴矢がすぐ目の前に居た。なんて思えばもう目と鼻の先で、晴矢の吐息が肌で感じる距離だった。

「ふ…っ。」
いきなり噛みつかれるようなキスをされた。急なことで頭が混乱する。まだ整理がついていないのに、晴矢は構わず角度を変えながら舌をかきまわす。少しの隙間からは私の声とは思えないような甘い声色が漏れる。息が苦しくて、でも少し満たされるような感覚に生理的な涙が目に溜まった。

「…はぁ、」
晴矢が少し身を引いたのを見計らって、私は体を離す。大きく肩で息をすれば、酸素が肺に体に巡るような気がした。と思えば、まだ息も整っていないのに再びキスをされる。
今度は吸われるように優しい愛撫。リップ音が厭らしく耳につく。
「は…るや!!」
余りにも苦しくなってグイッとネクタイを引っ張れば、晴矢は驚いて顔を離した。口からは飲み込めなかったお互いの唾液が唇の端から垂れる。ゴシゴシと服の袖で口をなすれば、晴矢はなんだかばつの悪そうな顔をした。と、思えば肩をガシリと捕まれる。またキスされると思って思わず目を閉じた。

が、何も起こらない。恐る恐る目を開いてみればうつ向きながらポツリと何か言っていた。
「…な。」
「は?」
「…み…な。」
「晴矢?」
「他の男を見てんじゃねぇよ!!」
真っ赤な顔をした晴矢が目の前に居た。と、思えばギュッと抱き締められた。

視線は俺だけを

晴矢らしいというか、なんというか。晴矢ってこういうやつだったよな、と今さらながらに感じさせられた。
妬いてたんだな、と耳元で囁けば恥ずかしそうにまた抱き締めてくれた。
妬かれるのも、なんだか良いじゃないか。なんて少しでも思った私は、ずいぶんと晴矢に溺れているな、と小さく笑った。


視線は俺だけを


(良いムードで悪いけど…。ねぇ、俺はいつ教室から出ればいいの?)
(ヒ…ヒロト!!!!)
(忘れていたよ…!)


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お題から

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