南雲と涼野


歯磨きをしようと洗面所に行った俺は、一人端でしゃがみこむ風介を見つけた。どうやら体重を計っているようで。横からこっそり覗き込めば、いつもより多い数字が並んでいた。

「太った?」
俺の声に驚いたようすの風介はガタリと体重計からずり落ちた。
「…晴矢…お前…。」
真っ青な顔をした風介は、ものすごい勢いで俺の肩を掴んだ。
「ん、あ?あぁ、別にわざと見た訳じゃねーし。体重なんて気にしねーか…」
「見たな。」
「へ。」
「見たな。」
「いや、だからわざとじゃねー…」
「見たな!!」
「…え、ちょ!?」
ものすごい形相で睨まれ、思わず後退りする。 落ち着けと肩を揺さぶると正気に戻ったようで、一つ大きなため息をついて一言「この私が…。太ってしまったよ。」と言った。


「別にいんじゃねーの?」
「バカか。この私がプヨプヨでどうする。」
脂肪じゃなくて筋肉なんじゃ?とか脂肪だとしてもお前痩せすぎだから大丈夫だろ、なんて思ったけれど、腕を組み真顔で言われて否定も肯定も何も言えない。ま、言ったとしても通じないのは分かりきっている。
「と、いうことでだな。これからお菓子禁止。」
「ふーん。……俺も!?」
聞き返せばもちろんと短く返事をされた。
「なんで俺もだよ!!関係ねーじゃん!!」
「私が我慢している横でお菓子を食べられたら気にくわないからな。」
当然のようにそう言われ、今度は俺が大きなため息をついた。仕方ないな、こいつのことだ。何を言っても聞かないだろう。
口をとがらせ、早く痩せろよなと言おうとした時。風介が小さく何か呟いた。
「甘いもの禁断症状が出たら………。なんでもない。」
顔を真っ赤にさせてうつむく。
何か言ったか?と聞き返せば、なんでもないの一点張り。大したことじゃないと思った俺は、洗面所に向かい最初の目的だった歯磨きの準備を始めた。



糖分補給は君で

(甘いもの禁断症状が出たら、)
(晴矢が甘いキスをくれるだろ?)
(なんて可愛い事を言ったことなど知らないままで。)

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