「水35lに炭素20kg。アンモニア4l、リン800g、石灰が1.5kgに、それから、塩分は250g……硝石100g、硫黄は80g、鉄5gにフッ素7.5g、ケイ素3g、そしてその他少量の15の元素と個体の遺伝情報……」
「ひ、日吉?何してんの?」
「姓先輩、ちょうどよかったです。髪の毛か血液ください」
「絶対嫌だよ!?」

 ここ数日降り続いていた雨が上がり、世間でも待望されていた雲一つ見受けられない澄み切った春の青空が、麗かな日の光と共に午後の学園を包んでいた。雨続きで陰鬱になっていた雰囲気も雲が共に連れ去ってしまい、代わりに太陽が運んできた陽気が久しぶりに感じられて気持ちの良い昼だった。こんないい天気の日には無条件で外へ行きたくなるもので、普段あまり訪れない屋上に珍しく足を運んでみた私を待ち受けていたのは、その爽やかな白昼の下には全くそぐわない、地面にしゃがみ込む怪しげな後ろ姿だった。そしてその背中が知人のものだと分かった私は、近づいて話しかけずにはいられなかったのだ。


 新学年を間近に控えた春休みの期間中、表向き学園が閉鎖されている中部活は執り行われていた。今日は一日午前と午後と、部活漬けのスケジュールだった私は昼の休憩時、気分展開にと思い屋上にやってきてみたのだ。一日中部活動が行われている部はあまりないはずだったので、普段は人が多く訪れにくい屋上には、そんなに人は多くないだろうと私自身予想はしてはいたのだが、扉を開けてみると、その予想を上回るあまりの人気のなさに驚いた。人気がないのも当たり前で、そこには日吉以外誰もいなかったからだった。そして今、人が寄ってこない原因が解明された気がする。

「あ。あーあ、しゃがみ込んで何やってんのかと思ったら……見つかっても知らないよー」
「いいんですよこれくらい。雨がいつか消します。チョークですから」
「あっそ。で、何これ。魔法陣?」
「当たらずとも遠からず……半分正解ですね」

 歩み寄った私に見えてきたのは、しゃがんでいた彼の周りに広がる、白色で描かれた、円形の奇妙な図形だった。魔法陣かと尋ねたが彼曰く微妙に違うらしい。半分でも当ててしまったとと思うと複雑になる。隣に座ってその場を少し観察してみると、何やらそこにはたくさんの物と一冊の本があった。

「先輩何でこんなところにいるんですか。まだ終わらないんでしょう」
「昼休憩。休憩くらいさせてよねー。あんたこそ、テニス部午前で終わりでしょ。何してんのよ」

 床の上に無造作に置かれた物の中、私が見た目で判断ができるのは水だけだった。もっともそれが本当にただの水かどうかは分からないが。風に乗ってどこからか硫黄の匂いもした。

「何これすごい量。よくここまで水運んだね」
「それ触らないでください危ないですよ。それはアンモニアです。ビン割れたら臭いですよ。あとそっちは石灰。触ったら手気触れますから」
「ど、どっからそんなの持ってきてんのよ……なんか硫黄の匂いもするし……本当何してるの?人体錬成でもするの?」
「そうですけど」
「だよねーまさかねそんな…………え?するの?」

 しますけど。と、日吉は声色一つ変えずに言った。それはあまりにも自然な反応のように思えて、だから何かと書かれている目の前の顔が上目遣いで不思議そうにこっちを見ているので、思わず私はああそうじゃあ頑張ってと言ってこの場での記憶をなかったことにし立ち去ってしまいそうになるが何とか留まった。止めなければ。逃げちゃダメだ。

「ええっと……」

 けれど私はすぐに頭を抱えてしまった。私が日吉を納得させるに足る、その先の言葉を言わなかった、否、言えなかったため、真っ青な空を横断する飛行機の音がいつもより近くで聞こえた。

「だから言ってるじゃないですか。姓先輩髪の毛か血液をください」
「あげないよ!私錬成しようとしてるの!?やめてよ怖い!なんで私を錬成する必要があるの!?」
「先輩がここに来てしまったからと、暇だからです」
「そんな理由でやめてよ!いや、理由あればいいとかじゃないけど!大体見たとこそこの材料あの某錬金術の漫画の中のやつじゃん!知ってるでしょ持ってかれたの!人体錬成は禁忌!!ダメ、絶対!」

 喚きたてている私と対称に、日吉は至って冷静そのものだった。はたから見ればその頭の内におかしな思考を秘めているなんて、もし周囲に人がいたらその人達は全く分からないであろうほどに冷静だった。

「勿論別に期待してませんよ成功なんて。言ったでしょう暇だって。大体柳田先生の本によるとこの材料じゃ筋肉質で骨ばったごつい人間ができるらしいですし」
「ごつい私錬成して何が楽しいのよ!……いや、面白いか。じゃなくてまず人間はできないの!そこから改める!」
「でも何か起きたら面白いじゃないですか。ごつい先輩で暇つぶしになるし」
「はぁ……そこまで暇なのね……」

 こういう時こそ大好きなテニスをするなり外周するなりしてればいいと思うのだけれども。ていうか、帰ればいいと思う。話を聞いてみるとどうも前々から人体錬成をしてみたかったらしい。何なんだ。

「はぁ……もう昼休憩終わるから、私戻るね」
「はい。部活頑張ってくださいね」
「はいはい。……錬成するなよ?」
「しませんよ。本物の姓先輩といるほうがいいですから」
「ならよし!」

 日吉の側から立ち上がり、屋上を出て行く。扉を開ける時に振り返ると、日吉と目があった。手を降ってみて、振り返してくれるはずないか思っていたけど、何と意外なことに遠慮がちにちいさく少しだけ振り返してくれた。



 階段を下りていく途中でふと、日吉の言葉が心にひっかかったのはどうしてだろう。









12/0518

エキセントリック日吉くん。一緒に帰りたがる中学生。
ここに来て気づいてみれば私、日吉は変なのしか書いてないですね!
それではお粗末さまでした!



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