中学生活最後の冬。私は猛獣の檻に放りこまれた。終わりの始まりだ。
駅に近い某所ファミレス店の前にて、時計の針は現在18時57分を回った。私はというと結局訳が分からないまま柳くんに連れられ、帰る事を許されず今に至る。柳くんはファミレスと言う名の魔境へ私を連れて行こうとしていて、心底帰りたくなった。
「……え?えーっと………………え?」
「まだ混乱しているか?」
事態の整理が未だつかない私をよそに、柳くんは扉に手を掛け中に入ろうとしている。先程から柳くんの行動力には驚かされるばかりだ。
中に入るのは好ましくないけれども、こうやってもたもたしているうちに一人になってしまい結局一人で突入するという現状で考え得る最悪の事態は何としても避けたい。となると柳くんについていく他なかった。影をなぞるその足取りは、死ぬほど重かった。
「いらっしゃいませー」
こちらとは切り離されたような、事務的な声が響いてきて私は身を固める。ついに来てしまった。
「2名様ですか?」
「いや、先に連れが来ている」
来ているようだった。
「やっぱ場違いにも程があるから私帰っていいですか。そういやドラマの再放送録り忘れたんで帰ってい「そうか、それがお前の導き出した結論か。だが、お前にそれを実行されると俺は仕方なしの実力行使へと移らねばならぬのだが……いいか?」ごめんなさい」
奥へ奥へと、私の気も知れず柳くんはずかずかと進んで行く。私もそのスピードに合わせようと努力するのだが、踏み出す一歩一歩がこれ程重いと感じたのは初めてで、歩みはなかなか進まない。決して私の脚が短いわけではないのだ。体格差その他諸々もあるのだから、違うと言わせてほしい。
はたと冷静になって考えてみると、今の私は自ら魔王の生贄になろうとしているようなもの、愚かな事この上ないじゃないか。でも何故か足は磁石で引き寄せられるが如く前へ前へと進んで行く。その先には、巣窟を牛耳る魔王が手招きをして待っていると分かっているのに。その前に、そもそも幸村は何で私なんかを気に入ったんだろうか。分からない、全く分からない。
柳くんに追い付いたり離れたり、それを繰り返せば奥との距離が縮まっていくのは必然的だ。目聡い柳くんはすぐに奴らを見つけ、あっという間に魔窟にたどり着いてしまった。