「って、何で納得してるの!?」
「いや今俺ら誰も何も言ってねえし。お前がなんか納得してただけなんだけど」
「え、嘘。私喋った?」
「嘘つくわけねえだろぃ、ばーか」
「……え?」
自分でも気づかない内に声がでていたらしい。周りを見てみると一様ににやけた顔がこちらを向いていた。
「いや言ってないし」
「言っていたな」
「言ってたっつの」
「……うそ?」
「ほーんと」
「ね!言ってたっすよね!」
「うむ。確と聞いたぞ」
「すっげー阿呆面んなってたぜぃ」
「丸井君。あなたという人は……」
何時の間にか会話に参加していなかったはずの真田くんからの確認までとれてしまった。必死の否定を重ねれば重ねるほど幸村の笑顔が明るくなる。否定してはいるものの、心の底では、本当は言ったかもしれないと思い始めていた。
「なーんだほの先輩乗り気ならいいじゃないすか!じゃあ今日からでも!」
「おおおおお断りします!」
こればかりはいつものように押しに負けてなあなあな流れになってたまるかと思い、私を捕らえようとする左右の雰囲気をいち早く察知することに成功した私は、脱兎の如くその場から逃げ出した。中庭を行き交う雑踏の隙間をぬって、一目散に校舎を目指して走り抜ける。後ろでは切原くんが私を呼ぶ声がしたが、追いかけてくる気配はない。
「おっと!」
「ごめんなさい!」
すれ違い様に誰かと肩をぶつけてしまった。振り返り一瞬、ぶつかった相手に謝ってまたすぐに駆け出そうとしたが、どういうわけか、私の体は前に進むことはなかった。誰かに腕を掴まれている。
「ちょっ……!」
「まあまあそう慌てなさんな。楽しい楽しい昼時やろうて」
「げっ!」
困惑よりも怒りの方が勝っていた私は、再び振り返り腕を掴んで離さない相手に抗議をしようとした。振り返った先に見えたのは、こんな状況で何度も出会った、そしてできれば二度と出会いたくなかった、そんな顔だった。
「仁王……」
「失礼やの。なんつー顔して見せるんじゃ」
「こっちの台詞だよ!なんでこんなときばっかりに!さ……あ」
言いかけていたところで、私の頭の中で一つの考えがよぎり、言葉が止まる。
「……だからか」
「なんがじゃ。ま、なんでもええが戻るぜよ」
「や、やめ、嫌だ!」
仁王に腕を引っ張られて、ずるずると引きずられながらその場を移動する。普段ならば気にする周りの目も今この状況では構っている余裕もなかった。それよりも優先すべきことがあったからだ。ただ残念ながらそれは、成し遂げることができそうにない。
「まあおまんらお揃いで」
引きずられた先は案の定、私が先ほどまで座っていた場所だった。
「遅かったね、仁王」
「お前また悩める女子ふってきたんだろー」
「先約ってそれ……」
新たに交じる仁王くんに何人かが言葉をかけた。そこで丸井くんが言った、仁王くんの先約の内容に、少し考え込んでいた私は思わず気抜けした。
再び幸村の隣に座らせられた私の目の前に、お菓子が差し出された。
「早かったですね雨宮さん。お疲れ様でした。紅茶とお茶菓子を用意していますよ」
柳生くんの私に対する労わり方は間違っている気がするけれど、香り立つ紅茶と美味しそうなお菓子に罪はないので、頂くことにした。
「……もう!頂きます!」
「ふふ、はい、召し上がれ」
心底楽しそうなに私の隣で微笑む幸村を見て、私はいつか仕返しをと固く誓った。
午後の群像劇