少しだけ慌てるような素振りを見せる幸村は水筒を取り出して、コップへとスープを注ぎ始めた。コップからは湯気が立ち昇り、コーンの甘い香りが鼻腔をくすぐる。差し出されたスープを一口飲んでみると、ほっとため息が出た。

「美味しい?」
「……美味しい。幸村はスープ持ってくるんだね」
「なんかないと落ち着かなくって。いいでしょ」
「あはは、いいかも」

 コーンポタージュのおかげだろうか幸村と私の間には、出会ってから未だかつてないほど暖かい、ほっこりとした空気が流れていた。


「あの二人があのように温もりに包まれているのは初めてではないか」
「奇遇だな弦一郎。今俺も同じ事を思っていた」
「てか皆思ってるっすよ……あんな優しそうな幸村部長初めて見た」
「仁王くんは残念ですね。こんなに珍しい物を見逃すなんて」
「おかしくね?幸村君って帆乃夏のこと好きなんだろぃ?知り合って結構なるのに甘い雰囲気のひとつもねえっておかしくね?」
「幸村に常識を求めるなよ」
「ちょっとギャラリー。うるさいんだけど」

 スープに絆されかけたかもしれないのは認めよう。けれど丸井くんの言うような甘い雰囲気にはなってはいない。そこだけは違うと断言する。


「ま、いーっしょ!とりあえず飯だぜ飯!帆乃夏、それそんなに旨いの?ひとつくれよ」
「お断りします私のメインですから」
「けち!」

 学習をした私は、先程の幸村と同じように私のお弁当を覗きこむ丸井くんから今回はメインディッシュを守ることに成功した。けちと言われようがこれは私のお弁当なのだ。

「旨そうだよなー本当。今度レシピ教えてくれよ」
「いいけどそんな大した物でも無いのに……」
「やった。じゃー今度俺も親父秘伝のとっておき教えてやるよ!」
「……ジャッカルくんの家では料理は男の仕事なの?
「まーな。親父が店やっててさ。俺もたまに手伝いとかしてるわけよ」

 今までなんとなく近寄り難かったジャッカルくんに、ここにきて一気に親近感が湧いた。お手伝いをしているという点も、興味を引かれる。

「じゃー俺今度ケーキ作っから!なんか食わして!」

 物凄い勢いで私の方を向いて、丸井くんが手を合わせ私に頼み込む。そこまで必死になる何かが私の料理にあるのかと満更嫌でもない気分になったがそうでなくて。丸井くんの口からとてもとても驚くべき言葉が出てきたのを、危うく聞き逃すところだった。

「な、なんか趣旨変わってない?どうしてそこまで必死になるの?!ていうか丸井くん、ケーキ作れるの?!」
「据え膳食わぬは男の恥!ってな!市販のスポンジに市販の生クリームとかんなことしねえんだぜぃ。すげえだろ」
「意味を取り違えているのか分かっていて言っているのか……。そうやって自分で言ってしまうところがもったいないんだがな」
「あはは、蓮二の言う通りだ」
「んだよ、いいだろぃ!自分で言うのもあれだけど、この前のは傑作だったぜ!」

 ため息を吐く柳くんに続いて幸村も丸井くんを茶化したように話す。

「では私は紅茶を用意しましょう。とっておきの茶葉があるんですよ」
「や、柳生くんまで?!」
「なんだ、それじゃちょっとしたパーティーだね」

 柳生くんまでが乗ってくるとは思いもしなかった。仮にも彼は紳士である。紅茶好きとしては紳士を語るに相応しく素晴らしいものを提供して頂けるのは正直美味しいなと思った。

「えーなんかいいなあ!俺だって食いた……あ、閃いたっすよ!」

 ずっと幸村の隣で難しそうな顔をして押し黙っていた切原くんが突然声をあげる。途中まで眉根を寄せていたその顔が、途端に明るくなったのは、何か思いついたかららしい。

「ほの先輩がマネやればいいんじゃないっすかね!!」

「……あぁ!」







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