迷いに迷った挙げ句、やはり午後の時間をお昼抜きで過ごすのは、私には酷であるので、仕方なしに幸村たちに合流することにした。ふと思い出して、ポケットの財布の中にお金がないだろうかと、少しの希望が頭を過ぎったところで財布を取り出して見てみる。が、すぐさま私の目に映る光は失せて、私は財布に入っていた63円という絶望的な金額と対峙することとなった。

「ご愁傷様。じゃーの」
「ま、待って待って待って!頼むせめて100円……って仁王くんは行かないの?」
「先約があるんよ。じゃ」

 へたり込んでいる私を置いたまま、仁王くんは背を向けて歩き去ってしまった。ふらふらと怠そうな足取りで、人混みの中を上手く交わしながら歩いていく後ろ姿を見て、先約、という言葉を考えてみたが私には分かるはずもなく、考えることをやめた。






 中庭、と言っても広いもので。天気がいいとお昼時は生徒で込み合う光景も珍しくない。今はもう随分寒くなってきたが、陽が差すとまだまだ暖かく、そこでのお昼はまだまだ賑わっていた。
 辺りを見渡しながら歩き続けていると一際騒がしい連中が目に留まった。確認するまでもないだろう。私のお弁当はそこにある。検討のついた私はお弁当の奪取のため、づかづかと怒りを込めて地を踏みしめながらその集団の方へ進む。

「いた……!」
「やあっと来た、おっせえよ」
「遅いっすよ先輩!!もー無理。早く食いましょーよー!」
「そう言うなよ赤也、あんま言うとブン太みたいになるぜ」
「うっわしっつれー!ジャッカルのくせに!」

 一番に私に気がついたのは丸井くんだった。それを皮切りにまた奔放な会話が始まる。

「あー、もう!お弁当返して!」
「んな突っ立ってないでまあ座れよって」
「幸村とブン太の隣、空いてるぜー」

 何となく予想はついていたがやはり食事を共にする事になってしまった。丸井くんは立ち尽くす私の腕を引っ張って、ジャッカルくんが進めたように自分と幸村の間に私を強引に座らせる。

「待ってたよーほーちゃん。はい、お弁当!じゃあ食べようか。いただきます」

 ぶすくれている私をよそに、幸村の合図で各自が食事を始める。律儀に挨拶してから手を付ける様子を見て変に関心してしまった。


「……いただきます!」

 いつまでもむくれていてもお腹は減るばかりなので、非常に不本意ではあるが、堪忍して、私も手を合わせ食事を始めることにした。



「さっ……真田くん……!」
「む、何だ」
「す、すごい……お弁当すごい綺麗だね!重箱!」
「そうか、すごいのか」
「すごいよ!ちょ、ちょっと見せて!綺麗ー!」

 私の目の前に座っていた真田くんが取り出したのは重箱だった。それだけでも充分びっくりしたが、それを広げた瞬間、さらに驚くべき光景が広がった。

「お母さん料理上手だね……すごい……」
「あまりの感動で雨宮が言葉を失っているようだ」
「俺もずっと気になってたんだよな、旨そう!」
「はしたないですよ、丸井くん」
「美味しそうだよね、手が込んでてすごいなあ、これ何時に起きて作ってるんだろう」
「やけに実感こもった感想っすね」
「お前も弁当自作なの?」
「えっ、ジャッカルくんも?」
「俺なんか家族全員分だぜ……」
「わあ……でも私なんかほとんど冷食様バンザイ状態だよ」
「お、なんか変なコミュ発生したっぽい」
「せ、先輩!幸村部長をフリーにしちゃ駄目っすよ!!」

 切原くんの言葉にはっとして右隣の幸村を見てみる。いつものようにどこか黒いものが混じる笑顔、は浮かべてなくて、至って普通だった。体を私のほうに預けて、興味深そうにお弁当を覗きこんでいた

「ほーちゃんのお弁当美味しそう。これ何?」
「あ、」

 私が止める間もなく幸村は、盛りつけられている今日のメインの一つである、鶏肉のトマトソース煮をひとつとって口へ運んでしまった。ちなみにこれは冷食ではない。昨晩の残り物である。

「……うまっ!え、美味しい。ほーちゃん作ったの?」
「私とおばあちゃんの共作……。昨日の残り物……。お昼のメイン……」
「あ、ご、ごめん……美味しかったよ。ごちそうさま!お詫びにはい、コーンポタージュ!嫌い?」
「ううん……もらう」
「もらうのかよ」







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