「こんにちはほーちゃん。今日はいい天気だよ」
「こんにちは幸村くん。出会い頭早々に悪いけれど、そこを退いて頂けないかしら」
「連れないなあ。お昼、一緒にどうかと思ったんだけど」
「御冗談、さようなら!」

 それは穏やかな昼下がりには不相応な、目の前に天敵幸村がいるという緊張の走る現場に私は現在対峙していた。

 目の前に立ち塞がる幸村のサイドが意外にもがら空きなのに気がついた私は、包囲網から逃れるにはそこしかないと一瞬のうちに思考を巡らせて、横を通り抜けようとすぐさま床を蹴る。が、私が飛び出すことを予測していたかのように、脇に控えていたらしい伏兵こと仁王に捕らえられて羽交い締めにされた。罠だったようだ。
 相手方の方が何枚も上手らしい。ここまでの一連の行動は全てが秒単位の動きで、それは昼時、たくさんの生徒が賑わう廊下での出来事としては、あまりに場にそぐうものではなかった。

「にゃろう仁王!またお前か!」
「残念。実はな、今日は俺だけじゃないんやき」
「帆乃夏ー!弁当返してほしかったらついてこいよ!」
「丸井!いつの間に私のお弁当!」

 言い終える前にいつの間に盗られたのか、気づかない程の素早さで私が傍らに抱えていたお弁当を窃盗した丸井は、目の前3メートル程先でものすごく楽しそうに弁当箱を振りかざしている。お弁当目指して仁王を振りほどこうと腕の内でじたばたと暴れているうちに、丸井は物凄い速さでそこから駆け出して行った。

「ちょ、この窃盗犯!」

 分かりきってはいたが、この廊下には丸井を止めるのは誰一人としているはずがなかった。走り去る丸井に対し何もできないまま呆然と見送ったあと、どれだけ暴れても解けなかった両腕の拘束は、いともあっさりと仁王自身によって解かれた。

「わ、私のお昼が……」
「丸井なら中庭だよ。というわけで、是非来てね!」

 笑顔のまま小走りで颯爽とその場を去る幸村を、これまた私はただ呆然と見ていた。というか、嵐のような彼らの騒がしさと勢いに今さら気圧されて、そうしかできなかった。
 計画通り、なのだろう。テニス部面々の見事な連携プレーを以てして成功したおそらく緻密なその策略に、私は見事嵌められたのだった。

「な、なんなの……」
「さあのぅ」

 呆れ顔で心底怠そうに、私と同じく取り残されている仁王くんを見て、彼はまた不憫にも付き合わされたのだろうということが伺えた。








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