「あー腹減ったー!なんか食べてこーぜー……って仁王お前いたのかよ」
「遅かったな仁王、それと雨宮」
「真田くんだ!お疲れさま」
「俺無視かよ……」
「……ぷっすー」
「むかつく笑いかたしてんのな」

 あれから待って30分、テニス部の練習は終わり、へばり付くようにフェンスを取り囲んでいた女子達は名残惜しそうに皆捌け、それを見計らったように部活に勤しんでいたメンバーが続々とコートから出てきた。

「よかった、ほーちゃん捕まったんだね」
「まあの」

 こちらに目を配って、仁王くんと私を交互に見ながら幸村が近づいてきた。

「こんばんはほーちゃん。帰らないでこうやって待っててくれたって事は、期待してもいいのかな」

 毎度の挨拶を皮切りに、幸村は笑顔を湛えながらそう言った。

「冗談……逃げたら何されるか分かんないから」
「俺は、好きな子はいじめないから大丈夫だよ」
「そうですか……」

 自分で言うのも何だが、他に言ってくれる人もいなさそうなので。ここ数日の間で私は随分幸村の扱いに慣れてきたと確信している。


「今日は、何か」
「ふむ、そうだな、ではファミレスなどどうだ?」
「わあっ!や、柳くん、いつのまに後ろに……」
「つい34秒程前の事だが」
「ああそう……」

 いつのまにか背後に柳くんが忍び寄っていたようで、結構驚いた。ひょっとして柳くんは、案外こういうことが好きなのかもしれない。
 気のせいかもしれないが、柳くんに何だが巧妙にこちらの出鼻をくじかれたようだ。

「いーんじゃないすかもうファミレスでー。早く行きましょーよ、もう限界っすよ」

 柳くんに続き、寒さに耐え切れないのか、その場で小さく跳ねながら切原くんが賛同の声を上げる。もしくは待ちきれず跳ねているのかもしれない。

「同感。んじゃ行こうぜぃ」

 丸井くんも切原くんと同じように小さく跳ねだした。寒いのではない、待ちきれないのだろう。二人は先頭をきって歩き出す。

「あ、あれ、何だろうこの自然に私が巻き込まれてる感じは」
「諦めた方が賢明なようですよ」
「じゃ、行きますか」

 苦笑いを浮かべながら柳生くんは私に慰めの言葉をかけてくれた。テニスコートに鍵を掛け終えたジャッカルくんは私の髪をぐしゃぐしゃに掻き撫でて丸井くんと切原くんに続いて歩き出した。反論の余地もなく、ずるずると引きずられるように私は連行された。途中、彼らに挨拶をするテニス部の後輩とか、すれ違った先生方が私を見てすごく驚いた顔をしていた。私が一番驚いているというのに。







まだ慣れない日常





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