予期していたのだがいざ間近で見てみるともう、凄い、の一言で事足りた。

「……凄いね」
「慣れればなんとも思わん。最初はやかましかったがの」

 未だ人気が衰える気配は一分も感じら取られないということが、ここに来て理解した。

 全国も終わった今、一応三年は引退という形をとっているが、実際はいつ顔を出してもいいというようなシステムになっているらしい。といってもこれからの大会に出れはしないし、あまり頻繁に足を運んでしまえば、残った後輩達は先輩離れができなくなるようで、考えものである。
 そこでもう、部活へは幸村の気まぐれで行くようにしているらしいが、その定まらない確率でさえも当てて、テニスコートを囲む彼女達は一体何者だろう。エスパーか何かか。

「嗅ぎ付けられちゃうもんなんだね。どっから情報漏れてるんだろう」
「不思議やのう。気づいたら集まっとる」

 今となっては特に思うこともないのか、仁王くんの言葉や態度からはそのように伺える。興味などなさそうに、フェンスに張り付く女子達を見越してその奥を眺めていた。
 特別その事に関して、さしたる解決法も最早必要としていないらしい。多分そんな風に思っているのは仁王くんだけじゃないのだろう。彼らはもうすぐここを離れて行くから、それは当たり前の事だった。

 だとしても、既に引退をしてしまったこの時期ですらこんなに賑わいを見せているのだから、全盛期はどうなっていたのかと、今頃にして私は興味が湧いてきた。


「今日の幸村の目的は、聞いてる?」
「さあて、のう」

 本当は知っているが、知らない。にやんと細めた目元と、弧を描く口から、それ位容易に想像することができた。いやらしい笑顔。それでも顔が崩れないで、寧ろ色気まで醸し出せるなんて、末恐ろしい奴だ。

 そんなもどかしい反応だけ残されて、ひどく後味が悪くなる。けれど問い詰めたところで仁王くんが口を割るわけがないのは分かっているし、それに仁王くんの中での私と幸村との不等式は考えるまでもない。どうせ待っていればいずれ分かる事だから、幸運にも暇な私は彼から何も聞かず、彼女達の応援を見ながらただ待つことにした。


「せっかく来たのに、部活、参加しないの?」

 私がそう言うと、仁王くんはあからさまに嫌そうに顔を歪めていて面白かった。







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テーマ「人外ファンタジー」
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