「ところで仁王くん、今日は実によく喋るね」

 昇降口に辿りつき、それぞれ靴を履き変えて外に出る準備をする。既に靴を変えたらしい仁王くんは、しゃがむ私の隣に立っていた。

 今日の、というか今日私と遭遇してからの仁王くんはえらく饒舌であった。どちらかと言うと、あくまでも雰囲気として、仁王くんはあまり話す人でないような印象を受けていたので、先程からの彼との会話が途切れることなく続いているのに正直驚いている。
 そうすると、仁王くんは悪そうな笑顔で、お前さんこそ、この前より口が悪か。と私に言った。


 靴を履き終えた私は立ち上がり、もう一人で歩けると思って今度は仁王くんの隣に並んで彼についていく。幾分か時間が経っていて、先程よりも大分深まった闇に、校内外から聞こえる声は少なくなっていた。どうやら仁王くんはテニスコートへ向かっていて、目的地はそこのようだ。

「もうええんか」

 この問い掛けを要約すると、自分の肩は必要ないのかということで、もう歩くのに充分支障のない私はその申し出を断った。

「やっぱり帆乃夏は変やの」

 普通の女子は、ここで意地でも俺に掴まろうとするものだと言って仁王くんは笑った。

「君のフェロモンが効かない希少な女子なんですよ」
「そういや、俺のフェロモンが効かん奴ならもう一人見つけたぜよ」
「えっ、誰?」
「姉貴」
「えっ!仁王くんお姉さんいるの!」
「言うとらんかったか」
「聞いとらん!いやでも効くなら効くでそれも問題だろうよ」
「まあそうさね」
「へー、君のお姉さんかあ……やっぱ同じような種族なのかな。むしろ君んとこの一家は」
「種族って」

 そうくだらないことにも仁王くんは笑う。先から薄々思っていたことだが、こうやって話していれば普通、とは言い難いが、まあ普通とあまり大差ない男子であると思われる。変に緊張せずとも話ができる。少し外見が発達しているから、そのようなオーラが発せられているだけのようだ。

 歩く際に、ぎこちなく私に合わせてくれている歩幅も、先程のことを少しは詫びる気持ちからのものだと思うと余計に親しみやすさを覚えた。

「ところで、テニスコートで何やってんの?」
「テニス以外にすることあるんか」
「あ、いやそうじゃなくて、何て言うか、部活もう引退したのにって付け加えればいいかな」
「あいつら暇人じゃけんの」
「あいつらって……ん?ああ、なるほど。だから仁王くんは制服なのか」
「察しの通り。サボって帰ろうとしたら、幸村に見つかって、こんな指令受けたんぜよ」
「君も暇人だったのか」
「俺に捕まっとるお前さんこそ暇人じゃ」

 暇人は互いに二人並んで、さらに暇人と称される集団のもとへと歩いて行った。


 よくよく考えてみれば、私がテニスコートに近づくのは入学以来初めてのような気がする。三年近くここに在籍していたのにまだ入ったことのない場所があると思うと、いかに私が無気力な学校生活を送っていたか伺える事だろう。

 とは言うものの、テニスコートへはいつも近寄り難かった。その周りに色々集まっていたからである。色々な意味での、熱気やら、とにかく私はそれが苦手だったから、意識的に近付こうとは思わなかった。
 初めて寄った際、即ち今も双方のそれは変わらなかった。







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