よく分からない状況に陥ってしまった。元凶は私の隣にいるとあるテニス部員、というそれだけは覆しようのない確かな事実である。
 色々あって結局、私は幸村より遣われし使者、仁王雅治に捕まってしまった。只今連行中なのだが、仁王くんの肩を借りている私は限界だ。
 折衷案をまとめる際、何故私は身長差のことが頭になかったのだろう。冷静になって考えたらこれは運動ニートの私にとって苦行でしかない。何だこの身長差は。肩を借りているというよりやはり担がれていると形容する方が正しいではないか。そのような面妖な格好のまま、私は半ば仁王くんに引きずられるように進んでいく。

「……辛うないか」
「辛いわぼけ。分かってたなら止めてよね」
「しかしのう、これも却下されたとなると、いよいよおぶるか姫抱きかの選択肢しかなくなるぜよ」
「君に姫抱きされるとか拷問にも等しい」
「お前さん、なかなかそれは俺にも失礼やき」

 小さい声でやっぱり変わった奴だと、聞こえるようにか聞こえないようにか意図して言ったかは分からないけれど、私にはそれが悪口に聞こえたので足に蹴りを入れてやった。すると仁王くんはいてっと小さな反応を返し、むっと私を見た。

「ほんとの事じゃろが。普通の女子やったら俺に姫抱きされんの想像するだけで卒倒する」
「いや別に私はお前のその妖しいフェロモンを否定しているわけじゃないんだけど」
「じゃあ尚更じゃろ。俺のフェロモンに反応せんお前は変」
「何だてめーちくしょー全世界の女相手に実験したことないくせに」
「統計学的にの話に決まっとるやろが。大体帆乃夏、お前こんな至近距離に俺とおっても何とも思わんのか?」
「何、元はと言えばあんたが足ひっかけたんだから」
「いや、感謝云々は俺も元から聞いとらんし期待しとらん。胸がドキドキとか体温の上昇とか発汗作用は働かんのか?」
「胸がドキドキもドキがムネムネもびっくりする程何もないよ。熱は至って平熱だから。発汗作用然々はご覧の通りです」

 ふと、仁王くんは急に歩みを止めた。もちろん私を抱えたまま。
 仁王くんは何か考えるように口元を手で覆って、床を黙視している。時折ぶつぶつと何か自分で呟いては、それを自分で否定する。というようなことを繰り返している。

「あの……仁王さん?」
「……閃いたぜよ」
「はい?」
「俺のフェロモンは、恋する乙女には効かん!」
「あ、そんなくだらない事をねちねち考えてたんですか」
「くだらないって部分に殺意を感じるんやが」
「気のせいじゃないので忘れないでくださいね」

 ひとつだけ分かった。仁王雅治は案外面白い奴だ。こうして私達、というか仁王くんは再びどこかに歩き出した。







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