「メリークリスマスだねえ」

「メリークリスマスなり」

「メリークリスマスっすね」

「エムイーアールアールワイクリスマスだな」

「は?……あ、メリークリスマスだな」

「メリークリスマスですね」

「正確に言うとメリークリスマスまでは後3分だ」

「3分後の約2千年前に、キリストが生まれたのだな」

「うん、メリークリスマス、だろ?」


どちらかと言えば深夜に分類される23時、今58分になった。テーブル上に残った私のママンお手製のホールケーキはブン太が処理するとして、あーあ、これから何しよう。てゆうかいつまで居座るのかなこいつら。


12月24日、世界的にイブ、前夜祭である。国によって、キリスト教を主な宗教としているところは今日が休日だったりするが、残念ながらここは日本である。信心深くないのは国民性で、ぶっちゃけクリスマスなんてイベントは所詮恋人達やプレゼント商戦のおまけのようなものだ。休日になりえないと言うのも頷ける。でもそんなクリスマスイブである今日はなんと、第二学期の終業式であり、ありがたいことに学校は午前中でお開きとなった。

イブなり、イブだぜぃ、イブである、イブっすよ!、イブだ、イブだぜ、イブです、イブだよ!皆口々にそう言い、普段見せないような笑顔を湛えてまで(真田は含まない)私のところに押し掛けてきた。とどのつまり、奇襲である。


二学期全課程の終了した12時、さあ帰ろうと弾んだ足取りで教室を出た矢先、奴らに捕まってしまったのだ。帰り着いたら楽しすぎる冬休みのはずが、スタートから最悪だ。それからは流されるまま見ての通り、強制的にパーティー開催地に我が家が選ばれ、今に至る。途中、実はもう一個買ってあったケーキを皆で取りに行ったりスーパーとコンビニでお菓子を買ってから皆で私の家に帰ってきた。何と都合のよいことか、私の母は幸村のお母様と大変仲がよろしいようで、こいつらの存在を咎めることなく家に上げてしまった。自信作らしいケーキまで用意しているところから歓迎しているのは明明白白。他の奴らは、幸村のところに泊まることになっているらしい。ならさっさと帰れ。あ、59分になった。


「実はクリスマスは、キリストの誕生日ではないという説があるのを知っているか?」

「は、まじでか」

リッツに手を伸ばしながら言った蓮二くんの言葉に反応したのは私だけだが、その場の若干名を除いた数人は私と気持ち同じく、目を丸くしている。

「うむ、聞いた事はあるな。実は9月に生まれたという説があるのだろう?」

真田がしきりに頷きながらそう言った。何よ9月って、聞いてないよ。

「何で9月?!9月なのに何で12月になってんだよ!」

「そっすよ!何でキリスト誕生日捏造されてんすか?!」

生クリームを口に纏ったままのブン太と、苺が刺さったままのフォークを握っている赤也くんが身を乗り出して訊ねた。まずブン太は口を拭いてほしい。

「そうですね。それはどうやら、冬至の祝いとあわせてきたということらしいですよ。口を拭いて座ってください、丸井君。苺、落ちますよ切原君」

「ひろしってばよく知ってんねー!あそーいやさ、イブって青学のおちびちゃんの誕生日じゃなかったっけ?」

「そーなんすか、それって可哀想なパターンじゃないすか」

オレンジジュースを飲みながら、赤也くんは私の話に反応する。赤也くんの呟きに疑問を飛ばしたのはジャッカルである。

「は?何で可哀想なパターンになんだよ」

まるで分からない、そんな風に首を傾げるジャッカルの肩に手を置いたのは仁王である。

「考えてみんしゃい、日にちが近いんやから2日連続ケーキ2個なんて食べれんじゃろ。だから必然的に誕生日プレゼントもクリスマスプレゼントと一緒、一つだけにさせられるんぜよ」

「あ、なるほど。ところで塩っぽいのが食べたくなってきた」

「俺持ってるよ、ハッピーターン」

がさごそとお菓子の袋から幸村が取り出したのは本当にハッピーターンだった。

「何で持ってんのよ!てゆうかあれ、それってば」

「うん、名がいっつもお菓子隠してるとこからとってきた」

「このやろっ」


ツッコミどころは多々あるが、この際深追いはしないでおく。今日がいくらクリスマスイブだからと言っても、深夜にこんなに騒いでいては近所迷惑極まりないだろうな。でも静かに厳かに、なんて性に合わないのは分かってるから無理。だから、あ、12時になった。


「12月25日、0時0分」

腕時計を見つめる蓮二くんがそう呟いた。結局、日にちを跨いでしまったけど、とりあえずは。



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09/1225

メリークリスマス。げんいちろーがあんま喋らないのは仕様です。






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