きらきら、きらきら。目に見えないのに、わかるもの。私は持っていないの。もうずうっと持っていなくて、未来でも持てないかもしれないもの。それは景吾くんだけが持っているの。
たくさんの星を留めたマントを着ているみたいに、ひらりひらりと、きらきらしている。いろとりどりに、景吾くんが綺麗に見えるの。いつも、どんなときでもきらきらに見えるの。だからね、いつもどきどきしてる。
どうして、きらきらしているの。どうして、景吾くんは。
「魔法なんだ」
「そうなの?」
「魔法使いだから」
そう、魔法使いだったんだね。
「それにしても、」
魔法はまだ、解けていないらしい。
「はあー跡部はかっこいいなあ……」
鉛筆と画用紙の擦れる音は、2人しかいないこの教室ではよく響いていた。声に乗せられた物悲しい思いに同調するかのように。他方、教室内の空気とはすっかり共鳴しているようだ。
近くに大きく広げられたキャンバスとは別に、私の手元にはスケッチブックがある。鉛筆は先程から、そこでしか動いていない。
「跡部はいつも輝いているんだね」
「はあ?」
「恐れ多いよ」
「…………」
「動かないで」
ふと気がつくと、私は昔みたいに景吾と呼ばなくなっていた。呼べなくなった、とも言うべきか。
「お前は」
「……うん」
「また、好きでもない奴といるのか」
「あぁ……うん」
身の入っていない私の答え方が癪に触ったのか、それとも私の答えそのものが気に入らなかったのか、まあ、どちらもと言ってしまえばそうなのだろう。眉根を寄せて心底腹立たしそうな顔をして、私から目をそらした。
そんな顔をしていつも私に言う。私が一人にしぼってしまえば、一番困るのは、貴方なのに。
私に干渉したがる癖はいつになったら抜けるのだろうか。そんなに私を留めておきたいのなら、いっそ檻にでもいれておいてほしい。目に留めておける距離に、甘い砂糖でべたべたに塗した鎖で繋いで、飴で固めた首輪をして、私を側に置いておいてほしい。
「景吾は」
「…………」
「ねえ景吾は、魔法使いなんでしょう?」
「……そうだったな」
「魔法をかけてほしい」
それは覚めないもの。私を飼い殺す最高の呪文。
「昔のやつは、まだ解けてないんだろ」
「そう、見えるなら、そうなんでしょう」
スケッチブックの中身が何よりの証拠だった。キャンバスよりも甘美な世界を濃縮させたその中は、愛憎が染みてしまったようだ。けれどそこには昔と変わらぬきらきらしたものしか置いていない。
魔法使いは知っていた。自分の魔法にかかったというその子を、自分はどうしたいのかということを。
「好きになればいい」
「好きになってほしい」
「……今更だったか」
15年と3ヶ月の魔法が未だ解ける気配はない。
11/0218