『イタリア行きたいな』

「は?」

元3年レギュラーと、名といういつものメンバーで帰宅中、名は突然そんな事を言い出した。

綺麗な茜空が見える今日は、いつもと違う帰路を辿っている。というのも、今日は英二がジェラートを食べたいとうるさかったから。冬もますます深まっているというのに、何が楽しくて冷たいジェラートなど食べるのか、甘いもの好きの考える事はよく分からないな。とは言うものの、実を言えば僕も嫌いなわけではないのだけれど。このメンバーで帰るのは楽しかったし、テニス部を引退してからはテニスをする機会は減っていたから、お店に寄って帰るという遠回りなのも別に構わない。まあ要するに、楽しいから僕もこうして英二達に付き合ってるって話。

「なぁんでいきなりイタリアなのさ?」

名の言葉にいち早く反応したのは英二だった。その言葉はここにいる皆の言いたい事を代弁していて助かる。

『え、そんな大した理由じゃないんだけど、ジェラート美味しそうだなって思って、ジェラートの本場ってイタリアでしょ?だから、イタリア』

相変わらず説明上手な彼女の言葉にその場にいる一同が納得する。

「イタリアか、俺も一度は行ってみたいな」

『でしょー。手塚はイタリア行ったことあるよね?どうだった?』

「暖かくいい所だった。食べ物も美味しかったな」

「えぇー、手塚ってイタリア行った事あるの?」

「忘れたのか英二?お前もお土産貰っただろ」

「食べ物だったから、あんまり覚えてないんじゃない?英二のことだから、食べたら忘れちゃったんだろうね」

『あはは、不二言えてる。ありえそう』

名がそう言って笑うと英二は頬を膨らます。その反応を見るかぎり、図星かな。

談笑しながら、ゆっくりと歩き続けていると色褪せた木の葉が僕達の足元を駆けていって、それはまるで、縮小された僕達のようだと思った。



『不二は何か食べる?』

目前に広がる色とりどりなジェラートを前に、名は言う。英二や手塚、その他はもう会計を済ませていて、後は僕ら2人だけ。名が少し難しい顔をしているのは、ジェラートがあまりにたくさんあるから決めあぐねているのだろう。

「僕はいいや。食べて帰ると母さんがうるさいから。」

名は?と問い返すと、名は目を閉じて考え始める。

『んー、食べたいの2つあるんだよね。でもダブルにできるほど今日持ち合わせないし……』

「奢ろうか?」

『えっ!いいの?』

極端に語尾が上がっているのは嬉しい証拠だ。変に遠慮なんてしないのは名のいい所だと思う。素直に喜ぶ、名が選んだのは苺と桃という組み合わせ。

『不二、ありがとう!』

「どういたしまして」

2つ乗ったジェラートを受け取って、嬉しそうなその笑顔を見れただけで、僕も嬉しい。だから英二とかに奢るのとは訳が違うんだ。幸せそうに、名は、まず苺のほうをスプーンで掬う。

「おいしい?」

『うん!』

「それはよかった」

『さっきの話だけど、不二はさ、どこに行きたい?』

さっきの話、とは行きたい国の話だろうか。

「うーん、僕も、イタリアかな」

『やっぱり?今度は本場で色々食べるんだ!』

「というか、ねえ名」

『?』

「一緒に行かない?イタリア」

そう言って、名の唇に着いていた、苺味のそれを指でなぞる。口元へ持っていくと、甘い味がした。









09/1115

不二は意外と大胆なのがおいしい。もちろんギャラリーいますよ。
ちなみにフラゴラはイタリア語で苺だそうです。





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