どれくらい寝ていたのだろう。
欠伸のついでに窓の外に目をやれば、西へ沈んでいく真っ赤になった太陽が見えた。もうこんな時間なのかとぼんやり考えているとまた欠伸が出てきて、今度は少し景色が滲んで見えた。滲んだ景色の中に、小柄な彼女の割に合わない、運べるはずない、馬鹿みたいな数あるテニスボールを積んだカゴを抱えた名さんが見えた。
「なんや危ないわ……」
きっと前は見えていないのだろう。よたよたとペンギンのように歩く姿を可愛いらしいと思った。(性格悪いやろか?)
「名さーん」
呼ぶと、上からの俺の声だと気がついたようで、きょろんとした目が上を向いた。
「何してはるんですか」
直前まで見ていたので知らないわけではないけど、一応念のために聞いてみる。名さんからは想像通りの答えが返ってきた。
白石部長や部員その他のための雑用、マネージャーである彼女の責務であるから当然、それは果たさなければならない仕事なのだろうが、それにしても、助太刀くらいに人員を割いてもよかったのではないだろうか。
仕事終わったん?と、今度は名さんからの質問。今日、一応自分は図書委員として学校へ借り出されていた。
「終わったも何も、大体人なんて来えへんから、仕事なんてないんすわ」
そう切り返すと、名さんは確かに、と言って笑った。
「もう部活終わったんすか?」
抱えているものを見れば分かるのだが、聞いたらきちんと答えを返してくれた。
まだ皆コートにおるから、後で顔出しい、と。そう言って名さんは仕事を果たすべく去ってしまった。
手伝います、と、言えなかったことに、少し申し訳なく感じても、既に遅いのは目に見えて分かっているので、次の機会を狙おうと心に決める。
「ひかる!」
階下で自分の名を呼ぶ名さんの声が聞こえた。帰りの用意をしている手を止めて窓の外を見てみると、何やら手招きをしている名さんが見えて、とりあえず自分を呼んでいるのだろうから下へ降りることにした。
「帰るんやろ?」
「そっすけど」
「なら、ちょうどええか」
「え?」
名さんの言葉の意味がよく分からなくて、聞き返してみたけど何も答えてくれなかった。ということは、きっと自分は知らなくてもいいことなんだろう。
「帰らへんのですか?」
「コート。皆おるから」
そう言った名さんの後ろを、引っ張られるようにただ付いて行くことにした。
コートに行けば言葉通り、そこにはレギュラーが全員いた。楽しそうに談笑している中、いち早くこちらに気がついた白石部長は何やら機嫌よさそうにこちらに手を振っている。
「遅かったなあ」
「はあ、すんません」
どうやらここにいる皆は自分のことを待っていたようで、口々に遅かったと言われては叩かれた。
「ほな行こか」
白石部長のその一言に、周囲は賛同の意を示し、一斉に歩き出す。ただ一人状況が飲み込めていないのは自分だけで、しかも考える時間も与えられぬよう、謙也さんに腕を引っ張られてこけそうになりながらも歩いた。
「そーめん食おうや、そーめん」
「光の誕生日祝いもついでやな」
「は」
ぐいぐいと引っ張られる自分を見てか、名さんはくすりと笑った。
ああ、そうか。
別に、今日が自分の誕生日であるのを忘れていたわけではない。ただ、皆が覚えていたことが意外で、こんな風に祝われると思っていなくて、少し予想外だった。
いつも通り騒がしいくらいが丁度いいのだ。自分にも、この人達にも。
まったく、そうめんで誕生日を祝われるのは、初めてである。
10/0727
ななななななな7日遅れのサプライズ。
財前かわいいよ。
頑なに先輩呼びをしようとしない財前がかわいいです。
いわうぜーおわったけどなー