侵されていく。
白石くんの舌が、こじ開けた唇から侵入して、私の口腔内を隅々まで探るようにぬらりと動いた。脳髄は溶けてしまう程に熱くなる。痺れ薬でも盛られたかのように体の自由が利かなくなり、妙な気怠さに包まれているというのに、白石くんに体を預けてしまえば不思議と心地好く思えた。それは、痺れ薬と言うよりも、媚薬と呼んだ方が正しいのかもしれない。

脊髄がむず痒くなるような白石くんとのキスから解放されて、私は酸素を取り入れようと大きく呼吸した。すっかり朧げになって焦点の定まらない私の瞳が捕らえた白石くんは、ひどく飢えていたようだ。


不意に、がりっと鋭い痛みが唇に走った瞬間、惚けていた私の意識が鮮明に戻ってきた。口一杯に広がる覚えのある鉄の味は、私に穏やかな警鐘を届ける。今の私はさぞかし滑稽に映っているのだろう。それは、目の前でさらに歪んでいく白石くんの口元を見ていれば容易に想像できた。
白石くんは、私を傷つけたのだ。事故ではなく、故意に。偶然ではなく、必然に。噛み切った私の唇からは微量ではあるが血が流れ続けている。少し顔を離して、じっと、観察するように、白石くんはその様を見ていた。私を見ているのには違いないのだが、その目は決して私を追ってはいなかった。白石くんは血を見ているのだ。ただ流れつづける、驚く程に赤々としたそれは美しい、私の血を。彼の目は、間違いなく、いやしい捕食者の目。

しばらく息をしていかのように静止していた白石くんだが、にわかに、ほう、と恍惚とした、艶かしい息が零れ、そのまま彼は私の唇に舌を這わした。血の味を楽しむかのように、己が噛み切った肉を丹念に舐め上げ、滴る血を余すところなく、零すまいと己の中に取り込んでいく。傷口に、白石くんの舌が触れる度に、鈍い痛みが伝わってくるのだけれど、いつしかそれすらも快感になるのではないかと私は杞憂した。答えなど、疾うに知っていたというのに。
にやんと妖しい笑みをつくる要素である口元も、目元も、艶めかしいという言葉がこれ程までに似合う彼に心から震えた。妖艶に細められた白石くんの目の奥では、今すぐにでも私を捕って喰らい尽くしてしまいたいという情念がぎらぎらと映し出されている。はて、それは色欲か、食欲か。





嗚呼、艶めかしい貴方!


拾/零伍/壱陸





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