「謙也さん謙也さん、」

「…………」

「いやあの、…………ごめんなさい」

「うっさいわ俺今心閉ざし中やねんから話しかけんといて」



失意の底というものをこの目で確と見たような気がした。彼の底は相当に暗く陰鬱で、言ってしまえば対応がかなりめんどくさいものである。今の謙也さんは従兄弟の侑士さんが心を閉ざした時みたいな顔してて似合わなさすぎて面白い。笑い事じゃないけど。そんなわけであたしは謙也さんのいつもの笑顔を取り戻すために只今その方法を模索中であるのだが、果たしてそれはいつ成される事になるのやら。

3月17日が謙也さんの誕生日だというのを忘れていた。プレゼントをポケットに偶然入ってたチロルチョコでごまかした。まさかその結果が前述の通りになるとは思わなかった。

そりゃあたしが悪かったのも認めよう。だけど心を閉ざす程拗ねなくてもいいじゃないかというのがこの件に関するあたしの持論。でも何やかんやであたしは謙也さんが可愛くて甘やかしてしまうから、仕方なしに微力ながらも彼の機嫌が直るよう精一杯尽くしているのだ。あたし超偉い。




「……もー、蔵先輩、謙也さんどうすればええんですか」

「そんまま目の前で服脱いで、あたしがプレゼントやでっ☆とかすればちょっとは機嫌直してくれるんちゃうん?」

「拈りも何もない予想通りすぎる全っ然おもろない回答頂きましたー。こんなんが先輩とか後輩として恥ずかしい」

「相談にのってあげとる俺に対する感謝とか敬意とか慈愛の情とかを微塵も持っとらんのかお前は」



蔵先輩とこんな話を目の前で繰り広げる傍ら、ちらりと謙也さんを確認したけどぴくりとも反応せずにあたし達に背中を向けたままだった。あ、これはあたしが思っていたよりも重症なのかもしれない。元々から精神面が少し脆いというのも災いしたのだろうけど、さすが、ヘタレと言われるだけの素養は持ち合わせていたようだ。





「謙也もそう拗ねんと、度が過ぎるといくらなんでも名からすら愛想尽かされてまうで」

「けっ、謙也さん!今機嫌直してくれたらゴディバのチョコと更にサービスであたしをあげますけどどうですか……!」

「さっき俺にボロクソ言うとった割に自分結局やりよるやん」

「もらう」

「お前に信念とは何か小一時間程問い詰めたい」



10/0320
謙也ごめん……色々……





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