London Bridge
is
Falling Down.








誰よりも自分が大事だというのは共通して人が行き着く末ではないだろうか。では何故人は己以外の人間を愛しいと思うのだろう。それもまた自分を大切に思う故、大事な自分が倒れないように誰かに支えて貰うため。相手もそれは同じだから結果、傍から見れば支え合っているように見えるだけだ。倫理学的に言えば人と言う字は支え合っている姿から創られたのではなくて、ただ一人で立っている姿から創られたものらしい。人の本能に逆らい、自分よりも誰かが大切だと思う事はそれはひどく愚かな事で盲目的なんだと思う。ただ一人の誰かを一途に想う自分に酔っているというだけの事もあるはずだ。善く思わない、認めたくないが残念な事に、どうも私の場合は前者に当てはまるようだ。盲目的だというのも決して否定はできなくて、いつのまに私は、こんなにも拙い感情を背負うようになったんだろう。どうにもそれは醜く腑甲斐無く、どろどろとした嫌なもののはずなのに、同時に手放す事のできないこそばゆいものでもある。



この橋が堕ちたのはいつだったか。木と粘土で造った橋は流されてしまい、鉄と鋼で造れば曲がってしまう。金と銀で造れると盗られてしまう。無遠慮に橋は幾度となく侵され、橋を渡られては壊されて、最後の手に私が選んだのは人柱という存在を使うこと。そして私が選んだ人柱は、私。今度こそ、大切な橋、否、私自身が倒れないようにと願って、私自身を生贄に捧ぐ。


「褒められたもんじゃないぜよ」

「ごめん、いつも」

つんとした匂いが鼻をつく消毒液が、私の頬の切り傷に染み込んで凄く痛かった。眉を顰めた私の反応を見た仁王は、私以上に顔をしかめる。

「まだ何も話さんのか」

きっと私以上に痛いのは仁王で、自惚れかもしれないけど彼が愛しているという私が傷つくのを一番許してくれない。その様を見るのはとても辛い事だっていうのは何となく分かる。(だってもし逆の立場だったらって思うと凄く嫌だから)

手放したくない、そうは言ったけど、やっぱり嘘かもしれない。現に私はこうやって仁王の所に来てしまっているのだから。そっと私を引き寄せる腕は比べものにならない程優しかった。

「お前さん……、殺されるんじゃなかか?」

震えている。微かでも腰にある仁王の手は震えていた。何度この腕に納まっただろう。何度この腕が還るべき場所ならばと願っただろう。そして、何度この腕を払ってきたのだろう。好きで好きで好きで、それでもここにいることはできなくて、仁王を巻き込んではいけないと思った。私は幸せになれないんだと思った。頬だけじゃない、腹も、腿も、指先も、心も、五臓六腑全ての悲鳴がこだまするのも、これまで私は無視をし続けてきたけれど、もうじき駄目かもしれない。


初めて触れた仁王の背中はあったかくて、離れたくないと思った。







「助けてよ」







10/0205






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テーマ「人外ファンタジー」
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