どこでもdoor! | ナノ
いやいやいや、奥さん冗談は止してくださいよ。そこにはそんな状況があった。
俺の腕を掴んでいた転校生の姿はなく、美形集団も腐男子野郎の姿すらなかった。
かわりに、 え?ソレ本物?な感じのクオリティーの高い天使の羽的なものをつけたコスプレ野郎がいた。
正確には、そのコスプレ野郎に押し倒されていたのでとりあえず殴っておいた。
気絶したのか、動かなくなったそいつを放置して、自分の居場所を確認する。
なんというか、はるか地上だった。押し倒された体勢のまま背中を地面についているのだが、背中をついている筈の床がない、空がある。みたいなところだった。
夢かとも思ったが、さっき殴った奴は痛そうにしてたし、俺の拳も多少は痛かった。
よし、奴に説明させようと立ち上がり、今度は俺がコスプレ野郎に馬乗りになる。コスプレ野郎は、コスプレなのかなんなのか上半身裸だった。下は、どこかの民族衣装のような布を巻いていた。
まあ、全裸じゃないならギリギリセーフか?なんて思いながら肩をつかみ、思いっきり揺さぶってみる。
「え、ちょ、やめ!」
何か言っている気がしたがやめない。
「ギブギブギブー!」
何かを叫んで必死に抵抗しようとするコスプレ野郎を、仕方ないなと放してやる。咳き込んでいたが気にしない。
「おい、コスプレ。ここはどこだ?」
「て、天界です!」
テンカイ?展開?転回?
首を傾げる。
「だから、天の世界で天界!」
点の世界。アートだな。
「絶対分かってないでしょ、アンタ!」
だから分かってるって。確かに点の世界とかいうアートは凡人の俺には理解できないかもしれないけどな。
というか、もしかして。
「……その衣装もアートなのか?」
まさか、そんなコスプレがアートだなんてと思い尋ねればコスプレ野郎は疲労困憊な顔をして気絶した。
よし、また揺さぶるかと思い馬乗りになる。と、そこへ新しいコスプレ野郎がやってきた。下にいるコスプレ野郎もそうだが、相当な美形でコスプレ姿が異様に似合っていた。
ソイツはコスプレ野郎に跨る俺を見て何を思ったのか、
「…………あちゃー」
と呟いて、お邪魔してごめんね!と小声で言って立ち去ろうとした。
したが、俺が止めた。
「ナ、ナンデスカ?」
思いっきり翼を掴んでみた。引きつった顔で振り向いたソイツは、心なしか顔色が悪い。
気を失っているコスプレ野郎の翼がピクピクと動いているのを発見して、まさかとは思ったがこれ本物だ。
天界ねぇ。
「説明。」
説明を要求してみる。ついでに翼を掴んだ手に力を込める。引きつった顔のままハイと返事をしたので翼を放してやる。
ただ、美形は引きつった顔でも美形だったのでムカついて羽を一つ千切りとっておいた。
「まじ、イッテー………。」
「説明。」
「勘違いしたことは謝るから、そんなに怒んなよ。」
ああ、その事もあったな。誰があんなコスプレ野郎を押し倒すかよ。羽をもう一つ千切っておいた。
「いっ!おいごめんって、やめろよ。」
「説明。」
翼に手を近づける。
「分かった!分かったからやめろ。」
なかなか効いたようだ。俺が手を放すと、安心したのか一つ溜め息をついて話し出した。
「まず、はじめに言っておく。俺は神様だ。」
オレハカミサマダ?
鼻で笑っておいてやったら。翼があるだろと苦笑いされた。そういやソレ本物だったな。
「ん?じゃあアイツは?」
コスプレ野郎を指差す。
「アレは、天使で俺の一番の部下。」
一応、大天使なんだがなぁと神様はまた苦笑いをした。美形は苦笑いも似合うものだ。
「それで、なんでその大天使様が俺を押し倒してたんだ?」
「押し倒っ!?ぶはっ!」
急に神様が笑いだした。翼に手をかける。
「ごめ、ごめん!くふっ、や、やめろ!」
半分笑いながらも謝る神様。まあ、一応神様なんだよなぁと思いながら翼を放す。
「……あれは看病だぜ?」
看病?
「おでことおでこを合わせて治療するんだ。」
なんだ、そういうことか。って今さら思い出したよ。なんでこんなとこで治療されてんだよ俺。ここ何処だよ。
「此処はアレが言ったように天界。」
あれ?心読まれた?
「……声に出てるっての。」
呆れたように言われた。でも、なぜ俺が天界なんかに?また転校生の巻き添えをくらったのか?と聞けば首を横に振られた。
「むしろ奴らの方が巻き添えだな。」
奴らとは転校生やら美形集団やらのことだろう。
さらにどういう事だと聞けば、長くなるけどよく聞けよ。信じろよ。と言われて開口一番に
「お前は、この下の世界の救世主だ。」
とか言われた。信じられるか、このコスプレ似非神様野郎!
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