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side第2王子:ハルト


俺は、この世界で唯一の王国の第二王子として生まれた。

そして、何不自由ない暮らしと引き換えに、城で飼い殺しにされてきた。

俺の名前を呼ぶものはいないし、俺が名前を呼ぶものもいない。

誰もが俺を第二王子と呼び、誰もを俺はお前と呼ぶ。


唯一普通に言葉を交わすのは、次期王として完璧な英才教育のもと、完璧に育った兄。現在の王の愛人の子であり、小さい頃から城内では疎ましがられてきた弟。

二人とも何かが欠落しているような存在だった。

そしてその間に生まれ、育ってきた俺もまた、おそらく曲がってしまった。

14歳になったばかりのある日の夜中、俺は初めて夜の町を知った。それからは夜な夜な城を抜け出し、外の友人と派手に遊ぶ日々。王である父親に兄が通う名門校に編入させられ、それでも懲りない俺は無駄に整った顔と権力で、今度は学校自体を牛耳った。

それでも満たされることはなく、俺が名を呼ぶ相手も居なかった。


だから、動揺したのだ。
他人の名を呼ぶのは、初めてに近かったから。


わざとらしく大きな舌打ちをして、イズミというらしいいけ好かない男を睨みつける。兄が視界の隅で笑いをこらえているのが見えた。そしてその兄がイズミを生徒会室の中央にあるソファーに座るように促す。

「生徒会入り、考えてくれましたか?」

「ええ、まあ…………。」

2人が話し合いを始め、何の反応も示さなかったイズミに恐らく聞こえていなかったのだろうと安堵した。



でも、

「なんで、聞こえてねぇんだよ。」

なんてそんなのは、この十数年でつきなれてしまった嘘に決まってる。